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日に沈みゆく富士山を眺めながら

11/11

夕焼けに染まった赤富士を見ながら、物思いにふけっていた。
単刀直入に言おう。私は道に迷っている。
文学的に表現しようがどう言い繕うが、私はまだ富士山嶺の一号目にも達していない。
霧に覆われた富士の裾野。
獣たちが跋扈する樹海林。
方向を見誤り同じ場所をぐるぐると回るように作られた道。
その道を歩くものがさらに迷うようにと前の手の者によって作られたイカレ看板。

意外と、いや実は、その看板は自分が作ってしまったものかもしれない。


真北を示さない方位磁石。
巡り合ったものたちを小さく描き込みすぎ、また未だ出会っていない虚像が大きく書き込まれた手作りの古地図。
新しい地図はこっちだよと教えてくれる奇遇な人がいても、なぜか頑なになって拒み続ける阿呆。
野犬の群れが恐怖となって後から着いてくる。
腹を空かせた獣たちが足跡を追ってくる。
それでもなお、先を行く者がいるような気がして、懸命に、自分を鞭打って前に歩みを進める。
このやり方は間違っているのかもしれない。
正しい道など、ないのかもしれない。
目の前には大きな、美しい富士山があって、富士山を登頂する者たちは皆軽々とやってのけていて、私にはもっと大切なものがないのかもしれない。
とにかく、やらねば。
とにかく進まねば。
前を行く者が鳴らす鈴の音だけが耳に残る。
チリーン、チリーンと音がする。
前へ。前へ。ただ、前へ。

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