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一匹の小さなカワウソが、広い大海原に遠洋に出かける。その前に、磯に作られた天然のプライベートビーチで素潜りの練習だ。
カワウソは海では泳がない。ただ、水のことは知っている。水の底にはいろいろな宝物が沈んでいて、それらはみんな取っていってもいいものだ。
川には魚がいて、白い腹を水面でチラチラさせながら流れに逆らっていきている。
カワウソは川辺の住人だ。けど、海に出るのは初めてだった。
カワウソはかしこいので、海辺を散歩しているときに見つけた、小さなアーチ状の洞窟のなり損ないと小さな浅瀬で最初に泳ぎの練習をして見ることにした。
仲間のカワウソたちは皆バカにしたが、カワウソは、自分が水の中を泳げるのか、不安でいっぱいだった。
浅瀬に足をつけ、腰まで浸かり、そろりそろりと全身を濡らす。
水はぬるかったし、底も浅い。
カワウソは思い切って頭まで水に濡らしてみた。最初は水が目にしみたが、そのうち慣れた。
誰もいないプライベートビーチにも宝物がいっぱい沈んでいた。小さなカニや、トゲトゲのウニ。ドロドロぶよぶよのナマコやウミウシ、丘では見たことのない青筋の群れで泳ぐ小さな魚。
黒くてピカピカ輝く石。
他人にはどうってことない物だけれど、カワウソにとってみれば、それらはみんな大切な宝物になり得た。
昔はよく見たんだけどなあ。宝物。
いつからだろう。宝物を探そうとしなくなったのは。
ボクはカワウソなので、バシャバシャと水辺を泳ぎながらなんとなくそんなことを思っていた。
誰もいない水辺。
誰かに見せてみたいなあ。そんな風にも思う。
カワウソなので。