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男はみな、心の中に、わめき泣きじゃくるひとりの少女を飼っているという。
彼女は誰の目にもつかないよう、こっそり泣いているつもりのようだが、泣くその姿は、女にはとうにお見通しらしい。
女は心の中に、美しい男を住まわせていると言う。
その男が一体誰なのか、初恋の男なのかそれとも自分の願望が生み出した美の象徴なのか。
すり鉢状に作られた観覧席と、その最底辺部に祭壇を模して作られた剣舞の舞台。
女々しく泣きわめく幼い少女性を帯びた自分自身と、それを否定し叩きのめす役割の涙の少女。
どこまでも高く伸びる観覧席に、決闘を見る観客は一人だけ。
仮面をかぶり、己を隠したい、身を隠したいと願う、やはり年齢の低い少女だ。
自分自身は何者なのだろうか。どうして自分たちは戦わなければならないのだろうか。
観客席の一角の扉があけられ、赤いたてがみに口から火をふく猛獣が飛び出していく。
翼を持ち緑の鱗を持った蒼い瞳の美しい龍が、客席を照らす窓辺の外から顔をのぞかせる。
客席の、席という席から大きく赤い嘴を持った恐鳥たちがいっせいにくびをもたげる。
戦う2人の剣闘士に、一斉に飛びかかる。彼女たちは戦うが、それを私は、ただなにかの絵空事や物語の読み手のようにただ傍観している。
自分の座っている席が形を変えて、まるでアイアンメイデンのように鋭い棘を自身の腕や体に突き刺していっても、血は流れず、痛みも感じない。
ただ、なにかを蝕まれていくようだ。
いつしか棘は、自分を掴むムカデの足になっていた。
耳元で大ムカデがささやく。その声は低くおどろおどろしいが、いっている言葉は明瞭だ。
自分を解き放てと言っている。
あの舞台に立つべきは彼女たちではなく、お前と、お前が踊り、歌い、自らを傷つけ流れだした血だと。
観衆は、お前の血と苦悩を求めていると。
お前があそこで踊らなければ、お前の居場所はここではなくなるぞ、と。
凍てついた世界。絶えぬ水のながれ。
自らを殺し、自らを血で染め、舞台を、観客を、見つめる群衆を沸き立てろ。
大ムカデは私にささやいた。