• に登録
  • SF
  • エッセイ・ノンフィクション

朝日を浴びる、この世界の廃墟の片隅で

ああ、今日も無事に朝を迎えられた。
もう何百回もこのつぶやきを心の中に描いている。
最初はすこし自嘲気味に。次第に大胆に。
たまに声を出して、言ってみる。
そうして誰か反応してくれないかなと一瞬だけど聞き耳を立てて、反応がないことに安堵して、バカバカしくなり、不安になり、いつもの朝を始める。

朝の靄が町中を覆っている。きっと自分以外の誰かもいるのだろう。所々に明るい火の気が見える。
この世界の住人はひどく排他的だ。誰も協力をしたがらない。
そういう自分も、非協力的だ。
この前は助けを求められて人間と目があったが、他の人間に目をつけられるのが怖くてすぐにその場から離れた。
本当だったら、真っ先に襲われて身ぐるみ奪われるような人間には、自分は関わらないほうがいい。
運が良くてケガ。悪ければ殺される。
そういう現場はいくつも見てきた。

この世界には人間さらいがいる。
エンジン付きのトラックでやってきて、目に付いた人間を捕まえてどこかへ連れて行く。
連れ去られるような人間はバカだと思っていたけれど、気がつけば自分も、人間さらいがよく来るような場所にかくれ住んでいる。
あのドアをぶち抜いて、仮面をかぶった人間さらいがここに来ることもあるだろう。

この世界は寒い。
火を焚かないと死んでしまう。
みんな生き残るのに必死だ。食べ物もずいぶん少ない。
けど、町の外よりは充分ましだと思う。
何もない世界よりは、ある世界の方がいい。


今日も無事に朝を迎えられた。
ガチガチに固まった筋肉を鳴らして、そっと指を動かす。
木の棒のようになった指を見て、感慨にふけった。

生きているのは素晴らしいことだ。
それ以外のものが、どうしようもないことを除けば。
私は生きている。

コメント

コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する