• に登録
  • SF
  • エッセイ・ノンフィクション

自己憐憫の花 何者も近づけない棘 卵よりも柔らかい芯

夜になるとアスファルトの裂け目から芽を出して、月の光に影を落としながら路上にツタを這わせる夜行性のバラ科植物。
その花は質素で淡いピンク色だが、特に特徴はなく昼間に見るとただの赤っぽい葉のように見える。
この花が絶世の花となるのは、全ての花が寝静まったとき、他の植物たちが花びらを閉じてうつむいている時だけだ。
夜行性の花は渦を巻き、路上の裂け目を大きく広げながら夜の世界に膨らんでいく。
大きな芽。大きな葉。
巨大なツタ。地面をえぐり取る大きな根。

動くもの、動かないものをその根と勢いづいた新芽の先で絡めとり、轟音とともに亀裂を作っては破壊し、ひっくり返し、渦を巻くように絡め取っていく。
そうしてできた一夜の森に小さく地味な花を大量に咲かせて、暗い世界を一瞬で自分の花で満たしてしまう。

この世界には私しかいない。
私が一番美しい花を咲かせている。
この時、この瞬間こそが、私の世界。
夜は私だけのもの。
夜が、私だけのもの。
花を咲かせながら植物は蠢く。
ツタ状のツルを大地に這わせ、月の光とともにその鞭を広げる。
コンクリートを破壊し、太い幹を自重で押しつぶしながら天高く成長していく。
この世界は私のものだ。
この地味で醜い花こそが、夜に選ばれたこの世界の花なのだ。

棘を四方に向けて、植物はなおも天高く成長する。
そうしてツタは自身を雲の高さまで押し上げた。
世界の夜は、まだまだ続く。

コメント

コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する