存在しない誰かのための伴奏。
いるのにいない誰かのための裏方。
誰かがいると思い込んで、思い込み続けて鍵盤を叩く、叩くためだけに、目をつぶってしまった。
いないあの人のことを思い浮かべる。
景色は思い浮かべているはずなのにその情景はひどく脆く、儚く、薄くてか弱い、綿や羽毛のように朧で繊細で、ほんのすこし吹く隙間風や、きしみ、月の光が輝くときに出てくるちょっとした音が、夜風が青草を撫でるように私の情景をひどく揺らす。
そんな繊細な私の妄想はひどく私を傷つけた。
ありもしないものをあるがままに弾くその姿を思い浮かべるとそれはひどく滑稽だし、私は楽器すら握っていない、もってもいない。
そういう、ささやきが、私の耳には聞こえるような気がして、私は耳も塞いだ。
もともと目もよくない、耳も聞こえない、見えているのは夜の中に浮かぶぼんやりとした世界だけ。
世界はなんだろうとか、この先はどこだろうかと歩を進めているつもりが堂々巡り。
美しい物を作ったと思えば、ひどく醜い化物を創り出してしまった。
心の檻に我が心を閉じ込めて、型どりをして出せば何かができるんじゃないかと思ってはいたが、出てくるものはどれもこれも、化物、化物、良くても人にあらざる人のような怪物。
言葉は通じず、言葉も発せず、ただうなる風や嵐の日の雨の音のように意味のない言葉だけを叫び続ける。
見た目だけがこぎれいな、バケモノ。
誰かのために、何かのために、そう思い込む事で目耳を塞ぎ自らを閉じ込める。
本当は、目を開けばすぐ目の前にいるはずなのに。
※要約:花粉症つらいです