ケロスケ(仮名)は目の腫れと痛み、かゆみに悩んでいた。
夏にまぶたまでアトピーになってから、どうも結膜炎になりやすくなってしまった気がする。少しでも油断するとすぐに左目が腫れてしまうのである。
今までは薬局で買った目薬でなんとかしのいできたが、先日ついに左目がお岩さんのようになってしまったのを機に、ようやく眼科に行くことを決意した。なにしろ目の周りの骨がガンガン痛く、目玉を取り出して洗いたいぐらいかゆいのだ。
なぜ今まで眼科へ行かなかったかというと、ひとえに面倒くさがりの性格の所為である。そして眼科は予約が難しい。下手するとひと月後なんてこともある。
知人にこぼしたところ、お勧めの眼科を教えてくれた。非常に優秀で信頼できるという。さっそくネットで検索すると、すぐに予約が取れた。これは有り難いとケロスケはもう治った気になって勇んで診察に向かった。
しかし、ケロスケの左目を診察した医師は、こう断言したのだ。
「白内障のレーザー手術が必要です」
ケロスケはうろたえた。レーザー手術? あの、こちとら結膜炎で来てるんですけど。
しかし医師は白内障を治さねば結膜炎は治らないという。知識がないまま話を聞くと、瞳の表ではなく裏側に症状があるとのことだ。有無を言わせない医師の口調に、ケロスケは怯えながら予約に承諾するのみであった。
同居人に伝えると、
「白内障の手術をした後は気持ちいいぐらいはっきりとものが見えるらしいよ」
と、まるで手術できてラッキーだね、ぐらいのノリで言われた。
そんなことを言われても目の手術なんてやっぱり不安である。
レーザーは簡単で時間も短いとか色々と読んだが、どうしても怖い方へと想像してしまう。
もうどうにでもなれ。最悪右目が残ってる、と覚悟して、同意書にサインした。
そして当日。
瞳孔がひらくように30分前から左目に点眼薬をさし、ヒリヒリするような刺激を我慢しながら眼科へ向かった。
手術を担当するのは前回とは別の医師である。ケロスケが緊張しながら診察室に入ったとたん、医師が困ったような顔で言った。
「どうも予約に手違いがあったみたいで」
「え、時間どおりですけど」
「そうじゃなくて、手術内容に手違いがあったんです。あなた、レーザーしなくていいんです」
「は?」
結論から言えば、これは誤診であった。ケロスケの目は本当に単なる結膜炎だった。前回の医師は、ちょっとポイントのズレた診断をしたらしい。
「じゃ、白内障じゃないんですね」
「ぜんぜん。だってそんな年齢じゃないでしょ」
医師はふふっと笑った。ケロスケは実はそこが引っかかっていたのですこぶる安堵した。
確認のための診察は5分で終わった。手術を免れたケロスケは、つきものが落ちたような軽い気持ちになって眼科をあとにした。
しかし、ひとつだけ困ったことがあった。手術前にさした瞳孔をひらく目薬が効きまくって、どうも目の心地が悪いのである。
家に帰って鏡を覗くと、右と左の瞳孔の大きさが違っていた。それはなんとも奇妙な光景であった。