• 現代ドラマ
  • エッセイ・ノンフィクション

昔の記憶を俯瞰で見ること

エッセイを更新しました。
前に外国のトイレ番のことをエッセイの中に書いていらっしゃる方がいたので、自分もちょっと前に読んだニュース記事をもとに書きました。
あんまり愉快な話ではないので恐縮なんですが、よかったら見てやってください。
今回は向田邦子のエッセイもヒントにしています。

僕はこの作家のファンなので、短編やエッセイ集も全部持っているんですが、なかでも「父の詫び状」は名作だと思います。
昭和の、戦中戦後の日本の家族の姿を生き生きと写し取ったような話、さりげないのに考えさせられる含蓄のある話も多く、読み応えがあります。
特に向田さんの父に対する視点がいいです。
このお父さんは、いかにも昭和のモラハラパワハラ親父で、もしも今SNSなんかにエピソードが投稿されたらあっという間に炎上しそうな人。
でも向田さんはそんな父親の話を、娘の客観的な視点で、しかも臨場感と可笑しみを込めて書いています。
それは歳月を経て俯瞰的にものごとを見られるようになったからなのか、それともこの方は少女時代から鋭い観察眼で大人の世界を見ていたのか。どちらかは分かりません。

子供心にも理不尽だったり疑問に思うような出来事を、大人になった現在の視点で語ることで、感情的なものではなくもっと俯瞰した境地になるのでしょう。筆者の子供時代を追体験するような心地とともに、大人である読者の自分にも返ってくるものがあります。
いずれにせよ、主観と客観の絶妙なバランスを感じます。

感情的にならざるを得ないようなことがたくさんありすぎると、なかなか心のバランスを保つのが難しいです。
でも、平常を保つために無関心無感情でいればいいかというと、そうではない。毒になりそうなものも取り込んだうえで、言いたいことを封じるのでも、黙って冷笑するのでもなく、自分が自分でいられることが試されているような気がします。

21件のコメント

  • 向田邦子は読んだことがないのですが、「父の詫び状」は、NHKの単発ドラマでまだ子供の頃(?)に見た記憶があります。
    ラストの父親の姿に、勤めるということはこういうことなんかなあ、と思った記憶があります。
    海水浴に行ってパンツをなくすのも「父の詫び状」でしたかね。
    向田邦子さんは一度読まなきゃダメですね。
  • 主観と客観。これに関してはかなり難しい考察を要すると思いつつ、柊さんの文章の素晴らしさは抑制と解放のバランスが絶妙な点にあるのだと思います。すみません、向田邦子さんは読んだことがないのですが、もしかしたら通じるものがあるのでしょうか。
    読み手を配慮しつつ、疲れさせない範囲で、気分を害したりしないように、それでも書きたいことの芯はぶらさずに刻んでゆく。故に共振させる。文字の魔力を最大限に発揮できる。凄いです。
    柊さんは、人との会話もお上手なんだろうなあとお察しします!
  • こんにちは。
    主観と客観の絶妙なバランス。仰る通りですね。
    実は柊さんと交流させていただくまで、向田邦子作品に触れたことがなかったのです。
    しかし、テレビドラマは観ていたので親近感を持ちました。
    それから、少しずつですが、エッセイに触れてみました。
    昭和の父親の良いところと悪い所に共感しちゃいました。

    柊さんの「自分が自分でいられることが試されている」
    奇遇ですね。私も最近ですが、毎日試されているなって感じ生きています(。-艸-。)
    もうすぐ27ですけど、遅いですけど、27だからいっか。ふふ。


  • レネさん、
    ドラマになっていたんですか。あのエピソード集がどんな風にまとめられたのか見てみたいですね。というか、本は読んでもドラマを見たことがないので、それが残念なのです。
    パンツをなくす話も入ってますね。
    なんだか好きの押し売りで恐縮ですけど、よかったら読んでみてください。
  • 呪文堂さん、
    なんかたくさん褒めて下さって、嬉しいのと恥ずかしいのと有り難いのでドキドキしました。「抑制と解放のバランス」というなら呪文堂さんの連載にこそそれを感じますよ。一話ごとに必ず広い幅があって緩急に富んでいて。
    自分は難しい文章が書けないので疲れさせないかも知れませんが、気分を害さない、というのはどうでしょう……意外とイラっとさせてる気もします。なんとか書きたいことを書き続けられるのは、どんと構えて読んでくださる方に恵まれているのだと思います。
    会話は相手にもよりけりですし、なんとも言えませんね。フランス語の方が気を遣いすぎなくていいという感じは正直あります。。
  • ハナスさん、
    テレビドラマをご覧になっていたんですよね。すごく羨ましいです。脚本家としての向田邦子を知らないので。というか脚本は読んでも限度があって、やっぱりドラマになった完成形が見たかったですね。
    親や大人の世界は「もぐらの泪」でも共通するところがありますね。
    色んなものを取り込んでも自分を保つ強さが欲しいです。ハナスさんはどんな風に試されているとお感じなのでしょう。
    もしちょっとでも気が向かれたら、書いて頂きたいな(とこっそりリクエストしておきます)どうかお気になさらず。
  • 柊圭介様 こんにちは
    向田邦子さんがとても好きで、妹さんの著作も読んだりしました。
    鋭い観察眼や深い洞察力の向こう側に、人間のダメさを責めるではなく皮肉るでもなくありのまま受け止める温かい視線を感じます。
    (私の希望が投影された感じ方かもしれませんが。)
    毒になりそうなものを取り込んだうえで——……もうとっくにもらう側ではなく与える側の年齢でありながらあまりにもなんにもしてない私は、試されてる気がとてもします。
    柊様のお言葉はいつも刺さります(私がだめだめだからですが💧)。
  • チョコレートストリートさん、
    ファン仲間がいて嬉しいです。しかも妹さんの本も読まれてるんですね。作品だけでなく、生き方みたいな部分もきっとお好きなのだろうと察します。
    向田作品のよさを端的に言葉にしておられて、その通りだと頷きました。特に短編はハッピーエンドがほとんどないにもかかわらず、嫌な読後感じゃないのは、人間の業を受け止めるあたたかさがあるからなのでしょうね。(ときどきチクリと辛辣なところも実は好きです)
    自分に言い聞かせるような気持ちで書いた文章ですが、共感してくださって、自分だけじゃないんだなと安堵しました。ありがとうございます。
    あと、この場で言うのもなんですが、掌編などにも目を通してくださり、お礼申し上げます。励みになります……!m(__)m
  • このノートの最後の一段落が響きました。
    エッセイも拝読しました。
    理不尽な事に感情的にならずに、言いたい事を表す事。
    柊さんの表し方、私はとても好きです。
    難しいと思いますが、試されているのなら、ひとつひとつ上手にクリアーされてきていると思います。
    これからもずっと応援してます!
  • 風羽さん、
    フランスの生活で日常的に意識させられるのは、なにかの事柄について疑問を持つこと、なあなあにしないこと、批判の目を持つこと、ということかなと思います。ですがこれを言葉にするのは難しいものです。自分なりの言葉の選び方をするしかないので失敗している(正しく伝わっていない)ところもあると思います。
    エッセイにしろ小説にしろどう書けばいいのか悩むことが多いですが、それでいいと言って下さるとすごく心強いです。メッセージいただいて涙腺緩みました(笑)いつも本当にありがとうございます!m(__)m
  • 昔の記憶に囚われて、そこに感情がどっぷりと浸かって、前に進めないってことありますね。
    「平常を保つために無関心無感情でいればいいかというと、そうではない。毒になりそうなものも取り込んだうえで……」ってわかる気がします。
    過去の痛みを感じないように仕向けるのではなく、俯瞰的に見ることで、過去の記憶から解放される。
    俯瞰的。これが難しいですけどね。
    私は最近、清濁併せ呑むって言葉が好きです。そのように自分のことも世界のことも見られたらって思います。

    オリンピック始まりましたね!
    開会式の演出。賛否両論ありますが、フランスらしいって感じでしょうか?
    そういえば、息子くん。水泳の選手育成コースの体験会に誘われました。
    水泳の選手になりたい夢があって、その才能があるって、すごいなって思います。
    この先どうなるかは全然わからないけれど、自分の才能がわからずに生きている人が多い中、才能がはっきりと現実に現れているってすごいなって!
  • 遊井さん、
    昔の記憶とか、個人的なものほど俯瞰で見るのは難しいものですね。時間が役立つこともありますが、そこに立ち返るとやっぱり感情の方が勝ってしまうもので。感情を殺すのではなく否定するのでもなく客観的になれることが大事なのかなと思います。これは自分にとってもこれからも続く課題です。
    身の回りや世界のことも同じですね。悲しい思いや不愉快な思いをしたくなければ距離をおけばいいだけですが、それは停滞しているだけにも感じますし。
    「清濁併せ呑む」って心持ち、自分もそうなりたいなと思います。器の大きさが試されるようですね。

    オリンピックの開会式、初めて最初から最後まで見ました!船での入場が気になっていたんです。雨で寒い中みなさん大変でしたね。
    ショーはフランス人の歴史観、誇りとか考え方が如実に出ていると思います。ただ宗教に関しては、表現の仕方で傷つく人がいることをもう少し考えるべきだったし、特定の団体がいかにも全体を代表しているような見せ方は若干迷惑でもありますね。

    息子君はかなり有望な人材なんですね!これは本気で楽しみになってきましたね。自分の好きなもの、目標が明確にあるのは幸せだと(特に今の時代は)思います。がんばって!とお伝えください^^
  • その後、体調と水漏れはいかがでしょうか?

    「父の詫び状」、読んでみようと思います。私も自身の中に同じ課題があります。私の場合、早くに自分が傷ついている事を自覚し、相手とぶつかればよかったのですが、長い間「いい人」の役割をしていたので、傷が深くなってしまいました。それも自分を守る為だったかもしれません。いつか乗り越えたいです。

    私、子どもや虐げられている人々のテーマになるとどうしても熱くなってしまうので、体調不良の時に申し訳なかったです。ごめんなさいね、柊さん。
    僭越ですが、柊さんとその点では扱いたいテーマが重なっていると思うので、御作を読むと、その筆力の高さもあって情動を喚起されてしまいます。恐らく年上なのに恥ずかしい限り。これから器を大きくしていくつもりなので、今後ともよろしくお願いします(あのやりとりは他の方をびっくりさせるかもなので消しておきますねm(_ _)m)

    今年も南仏に行かれるのかしら?
    素敵なバカンスをお過ごしください(*´-`)
  • 葵さん、
    お気遣いありがとうございます。今日やっと水道が直りました!実はラジエーターの交換工事も重なって気が重たかったので、一気に終わってくれてほっとしています。抗生剤も飲み終わって仕事もあとわずかなのでずいぶんと楽です。
    葵さんはご自分のエッセンスが入ったお話(エッセイではなく小説で)を書かれたりするのでしょうか。自分は小説を書くことで、傷と言いますか、過去やわだかまりなどの感情を昇華できるような気持ちがしました。私小説ではなく、あくまでもフィクションに織り込むというほうが合っているようです。重たくなりがちですが、素人の書くものですから、そういうものを書いてもいいだろうと思っています。
    コメントのこともどうか気になさらないでください。真剣に読んで下さるのが伝わってありがたいです。
    近々パリ脱出します笑
  • 向田邦子さん、読んだことがなかったのですが、柊さんがそんなにファンならば興味に感じます。本当に、同じ出来事でも見る人の感性によって別のストーリーになりますね。書き手の成熟度合いが反映されるのでしょうね。

    もうすぐバカンスなのですね!懸念事項がクリアになったようでなによりです^^ フランスの皆さんのバカンスは日程も長めで良いですよね~~楽しんできてくださいね💛
  • 神原さん、
    向田邦子の作品は昭和の日本を感じるのでとても興味深いですよ。そこに人間の機微があって、ちょっと苦いところがいいです。
    同じ出来事をどう描くかは書き手の感性と成熟度が出るでしょうね。だから書くことは怖いけども面白いなと思います。

    やっと仕事もなくなって心配事から解放されたので、田舎でのんびりしたいです。神原さんもよい夏をお過ごしください💛
  • 柊さん。
    セリーヌ・ディオンの愛の讃歌、やっと聞きました。その歌唱力には圧倒されました。
    だけど、やっぱりフランスって、面白い国だなあと思いましたよ。というのも「今でも」やっぱりエディット・ピアフの愛の讃歌なんだな、そういえば「愛の讃歌」っていうエディット・ピアフの伝記映画を観たことがあるし。と、思った反面、でも、「未だに」愛の讃歌にしがみつくしかないのか? という批判的な気持ちもなくはなかったんです。
    やっぱり古き良きパリの精神って、ずっと失われてないんでしょうか?
    それならばそれはそれでいいなと思うのですが。
  • レネさん、
    セリーヌ・ディオンは圧倒的でしたね。難病をおして歌っていると思うせいか、凄味が違いました。
    そうそう、レネさんの仰ることごもっともです。「これしかないんかい」って思っちゃいますね。
    でも世界中で知られていて、しかもこういう場にふさわしい(盛り上がる)曲はやっぱり愛の賛歌しかないのかな。
    昔の曲ってそういう意味じゃすごく長生きですね。
  • ──黙って冷笑するのでもなく、自分が自分でいられることが試されているような気がします。

    ドキッとしますね。
    私たち世代は正に昭和家長の絶滅寸前世代だと思うのですが。
    向田邦子さんの本は…まだちょっと私には苦いですね。

    観察する、対応する、『送り出す』
    全部済んでも
  • (途中でごめんなさい💧)
    …葛藤は宙ぶらりん。

    本当、自分でいられるのが大事です。
    どんな自分でも。
    結局自分勝手がやりたい世代なのでしょうかね ~(;^_^A
  • サバトラコさん、
    向田邦子のエッセイを読み返すと、とてもエレガントに毒っぽいことを仰っていると思います。短編も苦いものが多いですが、どちらにせよ弱さへの温かい目があるのが魅力ですね。
    自分に言い聞かせてるような文章ですが、共感いただいて嬉しいです。
コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する