少し前ですが、辻仁成さんの個展を見に行ってきました。マレ地区の小さなギャラリーですが、さすがひっきりなしに来場者が出入りしてました。ジャンルでいうと抽象画になるので、絵の分からない自分にはうまく感想が言えないのですが、白黒赤と金色が多用されていて、建物と空と海の景色と心象風景が混ざったような、生死を描くような重ための印象が強かったです。
絵のほかに画集もあって、少しめくってみたら、パリの屋根を描いた作品がいくつもありました。トタンの屋根に素焼きの煙突がたくさん並んでいる曇り空は、パリのポートレートのよう。もしまた個展があったらこの絵も実際に見てみたいです。
それにしてもミュージシャンで作家で絵まで描けるってどれだけ才能豊かなのか。
僕はこの方の小説は読んだことがないですが、ときどきブログを覗きます。パリに住んでおられるので色々と分かる部分も多く、楽しく読んでいます。犬と料理のお話がほとんどで、特に料理の写真はよだれが出そう。うらやましい。そういえばこの方は料理の腕も抜群だった。
でもごくたまに人生とか、ものの考え方についてちょっと真面目に書かれていることもあって、それはけっこう痛かったり、苦しかったりして、自分に置き換えても色んなことを考えさせられます。
うまく言えませんが、世の中で得をするタイプの人間とそうじゃないタイプがあって、自分が後者の場合、どうやって生きていけるのかな、というのを、この作家さんは身をもって読者に見せてくれているというか。色んなしんどいことにさらされてきた人の弱さと脆さと、どこか白けたような諦めと、自分を守るすべを身につけた強さと、色んな欠片が垣間見えるというか。
でも基本ほとんどの日記は軽い口調で楽しく書いてあるので読みやすいです。
小説も読んでみたいですが、あまり分からないので、もし初心者にお勧めの作品があれば教えてください。
とても美しい文章を書く方がお休みされているうちにいつの間にかいなくなっていたことに今日気づきました。自分にはとても真似できない綿密で端正な描写をされる作家さんでした。こういうのっていつも気づくとあとの祭りだったりする。
この方が『伴奏者』へレビューを書いてくれたときの感激は忘れられない。
「光を手繰り寄せる音」と題してくれたこと、「誰も生まれを選ぶことはできない」という出だしから始まる真摯で熱のこもった文章が本当に嬉しかった。
優れた書き手さんがいなくなってしまうのは本当にさみしい。また戻ってきてほしい。繊細なガラス細工のような物語と、切れ味の鋭いエッセイをもう一度読みたい。もらったレビューはこれからも大事にとっておきます。