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宮沢賢治でポン

  参考資料  筑摩書房刊 『宮沢賢治全集 第八巻』p478~<『筑摩全集8』>
『全集 第六巻』p164~(一応韻文形式、だ・である調『三人兄弟の医者と北守将軍』)とp452~(散文形です・ます調の『三人兄弟の~』)<『筑摩全集6』>

 校本 宮沢賢治全集 校異篇の方の第十二巻p94~<『校本全集12』>
校本 宮沢賢治全集 校異篇の方の第十一巻p5~<『校本全集11』>
新潮文庫 『新編銀河鉄道の夜』p159~ 解説はp379~<『新潮賢治』>
角川書店の『セロ弾きのゴーシュ』。<『角川賢治』>

 『北守将軍と三人兄弟の医者』
昔ラユーといふ首都に、リンと名づける旧家があって、そこの三兄弟は、医師をやってて担当が、三人皆で違ふので町の南の黄色な崖のとっぱなへ青い瓦の病院を並べてゐた。
彼らは、北の砂漠を三十年間守ったソンバーユー将軍率ゐる十万人の軍隊が、なんとか一万減りつつ謎の着生植物に罹って帰国、その治療にあたった功績で、将軍の陳情により国手になる。隠居した将軍は、かさかさ薄い麻を着て、田舎であるス山の麓で粟を撒いたりした後、消滅する。

『三人兄弟の医者と北守将軍』
遠くの遠くの、グレシャムといふ首府に、ホトランカン(普通の医者) サラバアユウ(馬の医者) ペンクラアネイ(植物の医者)の三人の兄弟医師がゐた。彼らは元々有能であったがあまり大學子になれなかった。がふとしたこと、百万の軍勢を率ゐて三十年勤め上げ、一万を減らし「猿をがせのやうなもの」を生やして帰ったプラン・ペラポラン将軍を三人で、彼の配下の九十九万の兵士の治療を一番下がしたため、王の依頼を受けるまでになった。

舞台あるいは
グレッシャム(『三人兄弟の医者と~』)>>ホーン、安西<『校本全集11』10頁> 決定稿ではラユー。

 キャラクターの皆さん

 リン・パー 長男。決定稿<『筑摩全集8』218頁>では“小医リンパー先生”と言ふ金看板があるが、没稿で“リンプー人間病院”を経営。袖のおおきな服をごくゆっくりと着る。小さいらしい。従業員のむすめはいいや。

 リン・プー 次男。馬だの羊だのの医者。『北守将軍と~』の初期形から有蹄患畜キックやパンチ防御用<『校本全集11』27頁>ブレストプレートを着、その馬だか羊だかかもしかの他に鸚哥やあうむ(鸚鵡だ)など鳥類も担当。『三人兄弟の~』では半分頭髪を剃ってゐたらしい<『筑摩全集8』478頁>。サラバアユウ<『校本全集12』109頁>は『三人兄弟の~』で医師と病院名<『筑摩全集6』164頁>に使はれる後、決定稿で“リンプー馬病院”<『筑摩全集8』492頁>をやるまで初期形でも使用<『校本全集11』26頁>。『三人兄弟の~』ではぢぢい馬のプラネンさんをいろいろ見た先生が飼主のフランドルテールさんへなんか指示する為書くとかする。

 リン・ポー 三男 草や木の医者。ハサミを持つ。『三人兄弟の~』での病院名は“ペンクラアネイ植物病院”<『校本全集12』112頁>で「トラホームにかかった桃」とかいじけた桃を問診して治療する。カウンセリングを受けた桃が鳴いて帰ったりする。この辺は『北守将軍と』では削除。

 北守将軍 ソンバーユーといふ名前は風天ヴァーユからとった説がある<『角川賢治』270頁>。彼のがなる歌のネタ元の漢詩は知られるやうになったのが千九八十年代だとWikipediaに書いてある。『三人兄弟の~』での名前はプランペラポランの筈が「プランペランカラン」「プランペラカラン」「ブ(BU)ランペラポラン」<『筑摩全集6』522頁>、初期形ではプーランポーが時々ペーランポ―になる。ライフワークみが指摘出来るっつうかなんつうか。
後、降三世明王の別名ソンバとヴァーユの可能性。広辞苑説で降三世明王は「三面八臂」といふ木の数。

『三人兄弟の~』から没案までは、へたる馬には朝鮮人参<『筑摩全集8』481頁>。決定稿では塩

 没稿では、「顔には不思議な苔のやうなものが煙のやうに生えてゐて」と描かれる<『校本全集12』102頁>兵士の顔に生える「灰色のもじゃもじゃしたもの」。着生生物らしいこのなんぞは、黄色の粉を振りまいて煽ぐと赤くなって散る。これは『三人兄弟の~』では「猿をがせのやうなもの」<『筑摩全集6』173頁>こっちはアルコホルとカミソリで何とかなった。リトマス試験紙の原料だった種類があるこの植物の関係も、宮沢賢治と関連するらしい。『北守将軍と~』の初期形ではその植物へ「黄色い巴図」の粉がかけられ、取れる。

 『三人兄弟の医者と~』から初期形までは、プーランポーあるいはプランペラポラン将軍といふかグレッシャムの人が持つ持病が北の砂漠で伝播し、罹った敵が腐って勝つ。じめじめしてゐたといふ気象条件が功を奏して敵の全滅を招く。病気は『三人兄弟の医者と~』散文形(韻文形では「腐って」)で赤痢、他の没案でペスト、肺炎、脳膜炎、中耳炎<『校本全集11』5頁>決定稿では砂漠を走り回ったために発症した「脚気」 共生植物ネタってあるよな。星野之宣『2001夜物語』でもカビとかと共生する人間の話があった。アニメ版はあうあう(宇宙服はよかったんだ)。

 北方将軍とその配下の皆さんを苦しめる「砂鶻(サコツ)」はクマタカと言はれる。沙漠の猛禽らしい。

 ほか蜃気楼関係が出るが、狐火といったら南方熊楠によればさういふ系は他に「ジャッカルファイヤー」もある。
 いいけど、同じやうなもので『遠野物語拾遺』の、東北の少年が化かされた話で、彼はけだものにより、ねこみみうさみみおんにゃのこを見せられたといふのが。
英語でBewitchmentとかGramourとか言ふ語があったねさう言へば。

 治療関係は、『三人兄弟の~』では、四大元素による解釈(体内の火や風が大きい、と説明される)での医療が見れるけどもいいや。

 呼吸法に関して書いた後、消えたとかスピリチュアルがどうたらとか書くと読者が反応するらしい。

 張仲素『塞下曲二』 「朔雪飄飄開雁門/平沙歴乱捲蓬根」を「どうしてこうなった」レヴェルの意訳で出て来る軍歌の、北方=雁、は支那での世界に関する表現ではデフォで、支那の世界地図では北端へ「雁道」或いは「雁門」と言ふ、雁の通るところが描かれる。雁門[yan men]と蓬根(Peng gen)って支那語でライムになってゐる、筈。
ヴァーユでインドつうたら、ヒマラヤ以北に理想的な処と言はれるウッタラヴァストゥがあるとかなんとか。盧綸『和張僕射塞下曲』に出て来る「月黒雁飛高/単于遠遁走/欲将軽騎逐/大雪満弓刀」の新月を指す(なので訳が「みそかの晩とついたち」)黒い月は、五行説バイアスにおける北からの連想なんだらうなやっぱ。

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