最近の自分の考える異世界ファンタジーの傾向は、不思議と現代ベースのものになりがちである。
現代ベースというのはつまり、現代日本……よりもうちょっと近未来の世界があって、それが滅んで、ン百年くらい経過した先の未来、もはやファンタジー世界にしか見えないような状況になっている地球を舞台にした、話。SFベースの異世界ファンタジー、みたいな感じ。
なんでそうした話になりがちかといえば、「世界の秘密」が明らかになる系の話が好きだからで、端的に言えば「猿の惑星」みたいな感じをやりたい訳だ。
加えていえば、神様がいて、そいつが世界や人類を生み出した、という設定を考えるより、現代の延長線上のものとして考える方がやりやすい、というのもあるかもしれない。「世界の秘密」が「実はここは未来の地球でした」、というがいちばん容易に思いつくものなので。
話はそれるが。
現実と異世界のリンクという点で、直近読んだ本でいちばん斬新だと感じたのは「殺竜事件」から連なる「戦地調停士」シリーズ。
この作品は魔法が存在するファンタジー世界なのだが、時折「異世界からの漂流物」が見つかる。いったいなんのためにつくられたものなのか……現代のわれわれが大昔の人々のつくった遺跡やら何やらの謎を解明しようとするように、その作品世界の人々もその漂流物について研究している。まあ一部の趣味人が嗜むもので、こっちの世界でいえば上流階級の人たちがオカルトに傾倒するようなイメージ、なのかもしれない。つまり、そうした「漂流物」はオカルトに近いような扱いを受けている。
その漂流物の正体がなんなのかといえば、現代のわれわれには「自動車」だとか「拳銃」だと分かる。作品世界の人々もその仕組みとか用途にはなんとなく推測はつくが、「どうしてそんなものをつくったのか」が理解できない。
というのも、その世界には魔法があって、魔力をエネルギーとして文明が発展している。だから、石油燃料で動く自動車だとか、火薬を使う拳銃だとか、そんなもの、そもそもつくろうという発想がない。魔法で移動できるし、魔法で人を殺せるから。だから作品世界に人たちにとって、自動車も拳銃も非効率的なガラクタに過ぎない訳で、それらに関して研究するのも趣味の範囲を出ない訳である。
文明の根本から違う、異世界人の世界観っていう点で、最近いちばんおもしろいなぁと思ったのがそれ。脇道に逸れたエピソードのようで、しっかり本題の事件にも絡んでいる要素なのも良く。
そちらは別に世界の秘密が明らかになる系の話ではないのだけど、なんというか、こういう風に「現実と異世界のリンク」を用いたいと思うのである。ファンタジーっていうなれば「なんでもあり」だからこそ、身近にある現実を中に持ち込みたいっていうか、一見すると魔法でしかないのだが、世界の真実が明らかになってみると、全ての不思議に納得のいく、論理的な説明がつく……といった展開がやりたいのである。
しかしなかなかそうした面白いアイディアは生まれないので、自分は堅実に「現代文明の延長線上の異世界」という路線から、「いかに現代感をファンタジーで論理的に上書きできるか」ということを考える。
ともあれ、異世界人が「過去に存在した超文明のアイテム」として重宝しているものが、実は現代のわれわれが知るテクノロジーの産物だった、とかいうのをやろうとすると、「それって、いつからそうなるの?」という疑問が浮かぶ。これについてこのノートでまとめてみたい。
つまり、どうやって現代文明が滅び、文明が忘れ去られていくのか。
個人的にもたまに疑問に思うのだが、なぜ「考古学が存在するの?」ということ。別に批判するつもりではなく、人類の歴史って延々と続いてきてるのに、どうして過去の歴史というやつが、研究する必要があるほどに謎めいたものと化しているのか。
まあ、まず考えられるのは、正確に情報が伝わらなかったから、ということなんだと思う。つまり、文字とかの文化がなかったから、その当時のあれこれが記録されなかった。記録はしたけど、その媒体が劣化なりなんなりして失われてしまった。戦争、災害とかでそうした記録媒体が失われる、というのがまず思いつく文明喪失パターン。
仮に文章とかが残っていても、その文字の読み方が伝わっていなかった、とかもある。一部のグループだけが使っていたが、その一部だけが外部から滅ぼされてしまったり。そうなったらどうしようもないけども。
ここ数十年ならいろいろ情報を残す手段があるから、正確な歴史を知ることが出来る。けども、大昔ともなればそうはいかない。
しかしそれはそれとしても、一部ならともかく、世界全体となれば。口述で伝わる情報もあるはずで。正確さには欠けるにしても……。
気になるのは、そうした口述で伝わる情報は、どれくらいの期間があれば完全に失われて、「事実」が「伝説」として語られるようになるのか、という点。
なんらかの理由で、文明が崩壊したとして。その時代に生き残った人たちを仮に「第0世代」として……この文明崩壊後の世界で生まれたのが「第1世代」の子供たち。この子供たちは親たちの言う「現代文明」というのを知らない。崩壊後も残ったアイテムとかを通してその文明の残滓を感じる程度。でもまだ親たちから話を聞ける。
その子供たちの子供、「第2世代」ともなると、さすがに第0世代こと祖父母の話も話半分で聞くようになるかもしれない。どれくらい文明の利器が残っているか、メンテとかで使える状態にされているか、というのがキーポイントになってくるか。
祖父母が死んで、「第3世代」くらいともなると、もう現代文明は過去の伝説になっているだろうか。
親から子への口述継承にしても、親が知ってる現代文明のすべてを伝えるのにはさすがに無理があるか。そもそも、親だって世界のすべてを知ってる訳もないし。
たとえば外国語の読み書きとか、親世代が知らなくて、子供にもまったく伝わらなかったら、孫世代なんかがその外国語の書物を発見した時、まったく意味不明の謎アイテムに見えるだろうか。
……そう考えると、まあ崩壊後、約100年くらいあれば現代文明の存在は失われるんだろうか。100年もあれば機械もガタがくるだろうし。
問題は技術の継承、という点になってくるのかも。
パソコンの使い方は知っていても、その全員がその「作り方」まで知ってるとは限らない訳で。
仮にパソコンの作り方を知ってる人物が文明崩壊後も生き残っていたとして。
機材とかかき集めてなんとかパソコンを作り上げたとして。ネットが通じるかはともかく。
……その「方法」が継承されずに、その人物が死んじゃったら、そこで「パソコン制作」の技術は完全に失われる訳だ。伝統芸能の継承とかもこういう感じなのかもしれない。残された人たちは、その人物がつくりあげたパソコンを観察なり解体なりして作り方を研究するしかない。
その人物が弟子なりなんなりとって誰かに継承していればいいが、この技術を持ってることで「生き残りグループ」の中で重要なポジションをとれるとなれば……そう易々とは情報の開示をしないだろうと思う。そうやって失われる技術もあるかもしれない。
若干話はそれるが。
「ビッグオー」というロボットアニメの世界観は近未来というか近代の地球で、しかし十数年前ほどから、それ以前の記憶や記録「メモリー」が世界から失われた、という状況。
人々は問題なく暮らしているが、たとえばクリスマスというイベントは知っていても、それがそもそも何を祝うためのものだったのか、ということは記憶していない。「メモリー」が失われたその瞬間、それ以前まで夫婦だった男女が、突然「目の前の相手は誰? ここはどこ?」状態になったり。そんなだいぶ変わった世界観のアニメがある。
その世界では、「メモリー」が武器というか、大きな価値を持つ。つまり、今は失われた、「かつて存在した技術」に関する記憶。かつては一般的に広く普及していて、知っていても大した影響力はなくても、「今」それを思い出すなり見つけ出すなりすれば、それだけで億万長者にもなりうるという……。なんなら、メモリーを持ってる人間は、その世界の支配者にもなれる。
……なんで「メモリー」が失われたのか、という点は分からないけれども、そういう突発的な「喪失」パターンもある訳ですね。「進撃の巨人」でも一部の人種に影響を与える特殊能力があるし。必ずしも「世界が滅びる」必要はないようで。
閑話休題。
……失われた技術が高度であればあるほど、世界にとってかなりの影響力を持てるようになる。だから独占しようとする人が現れたりもするし、むしろ「広げない方がいい」場合もある訳で。たとえば武器製造の技術とか、みんなが知ってればみんなが武器を持てて、そうなると殺し合いとかも頻発するようになる訳で。
そう考えると、重要な事実ほど「口頭」で人から人へ、親から子へとなっていくんだと思う。
よくある、王家だけが握る世界の秘密、とかもこうした背景が考えられる。メモリーを唯一知ることが出来たから、その世界で王様になれたという。
しかしまあ、そういう専門知識ならともかく、もっとこう、広い知識っていうのは、そう簡単に失われるものだろうか?
ここは地球、あれは太陽、太陽が沈むと月がのぼって夜になる……みたいなこと。まあそのくらいなら何百年経っても変わらず伝わるだろうか。あれがビルで、これは車、というレベルになってくると怪しいかもしれないが。
そうやってすべてが忘れ去られた後になって……また誰かが「ビル」とか「車」をつくりだす。その人たちは自分たちが初めて発明した、と考えるかもしれない。なんなら、われわれ現代人が発明・発見したと思っているものも、記録が失われているだけで実は過去の文明人はとうの昔に生み出していたものかもしれない。
この世はその繰り返し、という考えが最近頭の中にあって、だから「現実ベースの異世界」を考えるようになったのかもしれない。