• 歴史・時代・伝奇
  • エッセイ・ノンフィクション

RUGBY WORLD CUP FRANCE 2023

 日本のW杯挑戦はアルゼンチン戦の敗北で終わった。ラグビーに詳しい人間だったら「残念ながら、順当な結果」だと感じただろう。
 ネットの記事を読むと前々回のW杯で活躍した五郎丸歩元選手が「課題は選手層の薄さだ」と総括したという。W杯という長く、一方で試合のインターバルが「激しい消耗」に比して「短い」選手権で層が薄いというのは、確かに致命的である。しかしポイントはそれだけではない、痛切にそう思った。中継する日本のテレビ局が、過去二回の結果を踏まえて盛り上がり、国民を煽ったのは理解できないでもないが、南アフリカを破った前々回、ベスト8まで至った前回には五郎丸や田中、福岡といった有力な日本人プレーヤーがいた。今回も姫野や流、松田という優秀なプレーヤーがいたことは否定しないが、「特に日本人の選手層が薄い」ことはもっと指摘されてしかるべきだ。
 サッカーと異なり、ラグビーのワールドカップでは人種や国境を越えるのが比較的容易である。それはナショナリズムやレーシズムと立ち位置を全く異なる思想であり、ラグビーの国際的性格を表している点でサッカーなどよりも数等進んだ考え方である。だが、この考え方が日本のラグビーが世界に比して相当後れを取っている原因になっているかもしれない。日本のラグビーの代表選手のかなりの部分、取り分けフロントが外国生れの選手である事は明らかだが、問題はそこでは無い。(今回のチームでは純粋な日本人はほぼ半数であった)
 問題は、他の国に日本生れの選手が一人も居ないことであり、明らかな入超状態である事だ。外国で修行した選手だって、先ほど言った五郎丸選手がオーストラリアのチームに所属した事が知られているくらいで、ドイツ、英国、スペイン、イタリアなどで日本人選手が活躍しているサッカーと比べて明らかに後れを取っている。いや野球やバスケット、バレーにも追いついていないかもしれない。
 もちろん素人が批判するのは失礼だとは思う。
 だが素人と言っても僕は40年以上、ラグビーを見てきている。早稲田の選手がタクシー運転手に暴行を加え、チームが暫く謹慎させられたあと滅茶苦茶に弱体化し、日体大や帝京(その頃は弱かったし、早稲田帝京戦は秩父宮でさえなく、東伏見で行われていた)に負けていたのを現場で見、ペナルティキックさえ全く入らないのに情けなさを感じていた頃・・・あのころのキャプテンは松本だったかしらん?
 ワールドカップではオールブラックスに100点以上の差をつけられて敗退した試合も見たし、会社に入ったばかりの頃は上司の課長と一緒に、オックスフォード・ケンブリッジ大のチームが日本代表と対戦し、ハーフラインあたりからペナルティキックを入れられて唖然としたことも覚えている。雪の秩父宮における明治vs早稲田戦も観戦したし、同志社と慶応戦のスローフォワード疑惑も間近で見た。
 イギリスでラグビーがプロ化した頃、会社でスポンサーになった関係(ハーレクインズというチームである)でほぼ毎週、トッテナムでお客さん(イギリス人)と一緒にレスターやウォスプス、バースなどとの対戦の観戦をしたことも記憶に鮮やかに残っている、(サイドバックのウィル カーリングがダイアナ妃と怪しいとか言われていた頃だ、彼はジェィソン レナードと共にイングランドのナショナルチームでも戦っていた)その試合を見る限りではハーレクインズはその頃の日本代表とやっても多分勝つに違いないと言うほど強かった。でもそれよりもバースやレスターは強かった。試合が終わると選手がやってきて一緒に食事を摂ってくれたのだが、みんなフランクでナイスガイであった。
 南アフリカにお客さんがいた関係で、ヨハネスブルクで行われたブリティッシュ ライオンズと南アフリカの試合を見に行ったこともある。トッテナムで行われたナショナルマッチでは既にアルゼンチンやイタリアが力をつけつつあった。(殆ど負けてはいたけど)その間でルールも随分変わった(トライの点数や、リフティングが禁止になったり、許されるようになったり)時にはラグビーの観戦から離れた時期もあったし、国立競技場や秩父宮にしょっちゅう通った年もあった。まあ自慢をしているだけなのだが、それほどラグビーは見続けてきたスポーツである。
 観戦するスポーツとしては今なお、圧倒的に面白いのはラグビーでバスケットやサッカー、アイスホッケーや野球などと比べてもやはり断然に面白いゲームである、と思っている。

 今回、ベスト8戦で見たアイルランドとニュージーランド、フランスVS南アフリカの試合は圧巻であった。呪いから逃れられないアイルランド、開催地のアドバンテージを生かし切れなかったフランスは残念だったが、どちらも優勝しておかしくない実力だった。
 とりわけ、終了間際、規律を守りつつ30以上のフェーズを重ねたアイルランドの攻撃は見事だった。一方で30以上のフェーズをペナルティなしに堪えたオールブラックスが積み重ねた伝統というのも素晴らしいものであった。そのどちらも称えるのがノーサイドの精神である。
 日本と同じグループであったイングランド、アルゼンチンが準決勝に残ったのは応援する側としては嬉しい結果だが、ニュージーランドか南アフリカのどちらかが優勝するのが僕の見立てである。だいたいイングランドを除いては全てグループ2位が勝ち上がったという事を見ると準々決勝に残ったチームの実力はまさに拮抗していたのであり、もちろん予想が外れてもなんの不思議もない。
 こうしたチームに伍するためにはラグビーの良さである「出生地主義の拒否」に甘えることなく、世界で戦っていけるラガーを増やすことではないか、と思っている。あと4年、とりわけ今の大学の有力選手がレスターとかウォスプスとかハーレクインズで活躍する姿は望めるのであろうか?

コメント

コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する