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自民党総裁選はちょっと面白い 年寄りの戯言 番外編


 岸田現総理が総裁選に出ない、と決めたことで自民党総裁選は雨後の筍のような候補者乱立となった。
 岸田さんの世評はあいかわらず芳しくないが、その前の人たちに比べればよほどマシだったと個人的には思っている。とりわけ日銀を滅茶苦茶な組織に改編したあげくに放置した安倍・菅政権は万死に値すると考えているので、アベノミクスと共に黒田総裁を放逐したのは結構な決断であった。その上、菅元総理は総務大臣の時に愚劣な「ふるさと納税制度」などを作った責任がある。あれはふるさと納税ではない。「納税先を勝手に変えて商品を貰う納税方法」が実態であり、ネーミングを変えるべきである。地方自治の根幹である税収の趣旨を国が勝手に変えて良いわけがない。税金の分配をあんな非効率かつ馬鹿げた制度で行う気が知れない。そもそも租税負担の公平性をぶち壊すとんでもない制度である。そんな制度を作った人間に本来ならキングメーカー気取りなどしてもらいたくはないが、周りが注意しないものだから浮かれている。困ったものだ。
 それにしてもこれほどの乱立になったのは、小泉・小林という比較的若い世代が手を上げたことに依るのだろう。この二人が総裁・総理になればそれより年上の人たちの目はそれだけ確率が低くなる。せめて、候補になっておかねば、と乱立したのだろうが、乱立することによって却って若い人が有利になる、と思わないことが面白い。
 それだけ派閥の力と個々人の思考力が弱くなっているので、発言も支離滅裂である。閣内に留まりながら「なんとか自分の有利になるように」現政権の政策を否定するような輩は、「閣内にいるのが政策提言において不利に働くのは不公平だ」などと本気で思っているに違いない。そういう近視眼的な思考が蔓延しているのはいかにも今の自民党らしい。

 そもそも今回を始めとして、総裁選の特徴は「誰にならせたい」より「誰はならせたくない」という陶片追放のような原始民主主義の様相を帯びている。畢竟、総理大臣になろうという野望の持ち主は「こいつがなると自分の将来が不利」と思い、そうではない人たちは「こいつが総理になると冷や飯を食わされる」と思うのが投票の根拠で、日本が良くなるかどうかなんぞ実は「どうでも良い」というのが本音に違いあるまい。

 その中で、どうも小泉進次郎氏は「なりそう」な確率が高いせいか「ならせたくない」人たちの攻撃が強いのだが、その頓珍漢さが笑わせる。
 総裁出馬選の記者会見で「お前みたいなバカがG7にでて国際的に恥をかくのが国力の低下になるんじゃないか」とほざいた記者がいた。そんな質問をする記者の能力と品性にあきれかえる。
 例え相手がバカかもしれなくても、その相手に向かってバカではないのか、と聞くほど「バカな記者」を見たことがない。そういうときは本当に相手が「バカであることを暴露させるような質問の仕方」というのがあるのである。こんな質問をするのは「人間として記者として、どうなのか?」と思ってしまう・・・と言えば普通は言い過ぎなのだが、そもそもこういう話になるのは本人の責であり、非難するなら先ず自省して頂きたい。あんまり質問がバカなので「これはやらせではないか」と疑ってしまうほどであった。
 それ以外にも「地頭が悪い」と悪口を言う元国会議員、現コメンテーターがいるが、正直言ってそのご夫妻がやっていることを見るとコメント主の方も「地頭が良い」とは到底思えない。「地頭が悪い人」に「地頭が悪い」と言われるのは、数学的には「利口」なのかもしれないなどと思いたくもなる。まあ、そんなのをコメンテーターとして使っているテレビも同罪なのだろうけど。
 僕は小泉進次郎氏などを全く応援していないが、こうした「小泉進次郎氏を総理にならせたくない」グループの愚行は却って彼に有利に働くのではないか、と考えている。まだしもプーチンの「ハリス応援」の方が深謀遠慮に思えてくるのが情けない。いや・・・ロシアにとりわけプーチンにそんな事を言う権利は1ミリもない。お前らは人の国に口出しをする前に自分たちこそ、ちゃんとまともな選挙をしろ、と叱りつけたくなる。本当にどいつもこいつも・・・。

 石破氏は「もっとも国民が総理にならせたい」人だが、「もっとも議員がならせたくない」人だそうである。その理由が「飯を一緒に食わないから」。
 そんな事を言っている阿呆は国会議員を辞めろ、バカじゃ無いのか、とみんな思うから彼に対する国民の人気は高いのだ。実にレベルが低いが、この人にも「海を渡って沈没しかけた」男が「何回もしないでくださいね」と言われたといって「人気が無いのは当り前」などとほざいている。自衛隊や海上保安庁を舐めているのか?二度と海に出るな。
 それにしても石破氏があえて嫌われるような態度を周りに対して取っているのか、良く分らないが彼自身の中に「何か行動基準」があるのだろう。そういう人間に一度、舵取りをさせても良いような気はするが、させたらさせたで多分政権は短期で崩壊するだろうな。「三木おろし」のような事が起きるに違いない。

 女性は残念ながら立候補は二人に留まる。9人出たら4,5人が女性であるべき、というのが今の世界標準なのだが、立憲民主党を含めて2割そこそこが政治の現実なのだろう。女性が総理に立候補する、という状況が普通になるのは望ましい。といっても、本当は男女とかは関係なく、きちんと能力のある人間である事が望ましい。今回出馬する二人がそうした能力があるのかは分からないが、上川氏は外国の評価は高いようだ。まあ、総理を選ぶのに外国の評価はひとまず置いた方がいいけど、外国と言ってもちゃんと民主主義が確立している国から評価が高いというのは悪くない。これがプーチンあたりから褒められると疑いたくなるが・・・。

 茂木、加藤といった所はやはり若手が手を上げた物だから焦って出てきたのだろうが、若手が総理になっても長続きするかどうかも分からないわけである。今、若手に勢いがあるのは「刷新」を装って選挙を有利に戦いたい「自分たちのことしか考えていない」議員が推しているだけの話で、選挙が終わったら足を引っ張ろうと手ぐすね引いているのだ。このタイミングで出て惨敗するより他の手を考えた方が良かったのでは無いかとは思うけど、立候補は権利だから、どうのこうの言う話ではない。いずれにしろ決選投票になるに違いないからその時に恩を売ろうと思っているのかも知れないが、あんまり高い値はつかないだろう。二人とも本来の能力より自己評価が高すぎるように思う。とりわけ加藤氏はコロナの時の駄目さが忘れられない。茂木氏は能力があるように見せかけているが、本人自身の能力なのか・・・選挙活動の支離滅裂を見ていると疑わしくなってしまう。
 林氏はそれなりに能力が高そうだし、英語もだいぶ他の候補者よりはマシなのでもう少し人気があってもいいのだろうけど、対外政策での中国重視は明らかに足を引っ張るだろう。中国に関しては政経分離の原則で、もしそれがパッケージになったら、政治を優先させるという前提を明確にしておかないと、大方の理解は得られない。
 河野氏は残念ながら、前回候補になった後の行動が総理への道を遠のかせてしまっている。加えて「本人が自分では理解できないパワハラ体質的な雰囲気を纏っている」のが、今の兵庫県知事の異常な行動」を連想させて足を引っ張られる可能性がある。こうした人間の特徴は「誤りを認めることでの自己崩壊」という症状を伴うので厄介である。決して過ちを認めない人間をトップにするのは怖い。とはいっても自己崩壊させてしまうのも後味が悪いのでトップにさせないのが互いに幸せなのかも知れない。
 高市、小林候補は(自称候補だと言い張った青山氏も含めて)「自由民主」というより「保守」なので、総裁選後には新党を作った方が良いと思う。立憲民主にしても自由民主にしても「基本的に考えの異なった人」が「政権維持ないしは奪取」のために蝟集しているのはみっともない。
 自由民主党は結党時から烏合の衆であったのは事実で、自民党結党以来の共通した目標などと言うのは「本当は」そもそもないのである。様々な案件に関して実は進まないのは別に誰の所為でもなくて、自民党自体が一致したものを持っていないところに理由がある。じゃなければもう70年も政権を取っているのに「結党以来」の残り物があるはずがないのだ。 
 例えば改憲論議一つとっても、改憲という行為はともかく、改憲の内容では思うところが異なり、結局行き着かないまま、じたばたしている。自由民主党と言う党名は戦後まもなく結党する際に、多数決では保守党としたかったのだが、それでは選挙に勝てないからと自由民主党にしたという経緯があるのだが、今ならばそれ自体が国民に対する詐欺である。
 僕は自衛隊を憲法に載せるのは実態上仕方がないと思っている(解釈改憲よりはまし)が、それ以外では(7条解散の廃止以外)は反対である。そのポイントなら改憲に賛成しても良いが、自民党の改憲論議はどうも煮え切らない。それは「自由民主」と共存しない「非自由・非民主」或いは「反自由」な要素が入り交じっているからであろう。
 自由民主党なら「自由で民主」だから応援して貰えるが「保守」は選挙に勝てない、などと愚弄した理由で党名をつけたなら、せめて党名に合わせたグループを残し、それに異議がある物は保守党として正々堂々と闘うべきでしょ。そんなこともしないで保守などと言っているから馬鹿にされるのだ。別に保守が悪いとは思っていない。保守なら保守らしく、羊の皮を被るのは辞めなさい、といっているのだ。リベラル勢力はけしからんと言っているリベラルデモクラティックパーティ(LDP)は存在してはいけない。そう言う意味では自民党の総裁になるより新党を立ち上げてその総裁になって頂きたい。中身によっては応援しても構わないが、いんちきな旗印のもとでは応援は出来ない。
 もっというと、自由民主党は三つの「基本的に異なる考え方」が合体したキメラ的存在で、その一つが旧清和会を中心とした「保守」、そして(本人たちにその意識があるかどうかは別として)アメリカの旧来の共和党的な「自由」をベースとする発想が勝つ組と「民主」的な発想が勝つ組に分かれる。その違いは今回で言えば、「解雇論争」で対立するわけで、企業の解雇の自由化を推進する小泉・河野両氏は「自由」主義的な要素を強く持つ。これに反対する派はどちらかというと社会民主主義的な発想をするグループと、家父長的発想をする保守派が反対をするのだが、その視点は異なる。
 まあ、自由民主という「二つの価値観を同等で主張した」党名なので、「自由」と「民主」のグループは同じ名称の傘の下においても「詐称」ではないが、本来「背反的」になる可能性を秘めた党名を共有するからこういう矛盾が生ずるのであって、その意味ではまともではない。

 総裁選の実際の論点はもう少し整理した方が良くて、①憲法の改正に関する条項毎の意見(改憲かどうかなんてどうでも良くて、何条のどこを変えるのかきっかりと説明せよ)②アメリカとの民主党・共和党いずれかとどう対応し、どう協力するか、とりわけウクライナ・ガザに関する共同行為についての明白な考え方を述べよ③対中国、対北朝鮮の軸を基本としたアジア外交の戦略を明白にせよ④これまでの金融政策の是非を明確にし、日銀の機能をどうするか考えを述べよ⑤そもそも経済政策を実行する能力はないことを前提として、最低でも成し遂げる政策を述べよ(成長、分配)⑥そもそも社会保障政策を実行する能力はないことを前提として最低でも成し遂げる政策を述べよ(社会福祉、出生率)そもそも今の社会保障制度論議は負担を若い者に押しつけるか老人が死を早めるかというゼロサムの議論しかできていない。まあ、今まで50年かけて同じ事をずっと議論し、出生率も上げられなかった政党に解決策などないのだろうけど⑦地方再生に関して(夢みたいな漠然とした話はどうでもよくて)首都機能移転のプランを述べよ
 あたりは最低でも個別に議論して欲しい。そういうことができないことに自民党の長期政権の弊害があるのだ。マイナカードとか消費税とかたかだか一兆円の防衛増税の話なんて、ほんとうはどうでもいいのだ。但し消費税に関して言えることは、消費税の上昇余地がまだあるからこそ、日本の財政規律に関しては世界がまだ「甘く見てくれている」ということはきっちりと認識して欲しい。
 マイナカードに関しては、マイナカードの基本である「総背番号制」はカードの使用、不使用に拘わらず既に完了しているのだ。問題はカードを管理する能力に関する疑念である。僕はカードができた時にすぐに発行したが、一度も使っていない。使いにくい上に使うと情報管理上怖いからだ。使わせるならもっとまともに管理しろ、というのが本筋である。そんなレベルだから駄目なのだ。安心して使えるレベルまで引き上げるのが政治の責任であって、それをするのが政治家の仕事であり、その認識が欠けている時点で今の担当大臣は失格であろう。
 防衛増税はある程度仕方ない話なのだが、どうも防衛省に「カネ」を渡しても国力に跳ね返ってくるのか心許ない。防衛費の増加は、実際は、防衛装備を納めている会社と米国にとっての利益にしかなっていないのではないかという疑いが強く残る。要はカネの問題ではなくいかに防衛力、ないしは国力を増すかという議論に繋がっていない実態があるのではないか?
 もうちょっとマスコミを初めとして僕たちは厳しい質問をするべきではないのだろうか?

 立憲民主も結党時から「政権を取るために」有象無象が合体してしまった経緯があり、今回野田氏が小沢氏の応援を受けて出馬したのは、極めて「自民党的発想」が底にあって、小沢という人間は芯から自民党的DNAの持ち主であることを再確認させた。要は「政権を取るためにはどうするか」という発想から行動を決めるのである。個人的には野田氏を僕は嫌いではないのだが、そもそも「政権を投げ出す選挙をやった」総理であり、第二次安倍政権を樹立させた功労者?であるこの人が、「政権奪取」を小沢氏と組んで行う、という図は余りみっとも良いものではない。
(立憲)民主党の歴代党首(鳩山、管、野田)は民主党政権崩壊の直接の原因であり、この人たちが「二大政党制」などという馬鹿げた夢を、馬鹿げた形で壊したのだから、黙って沈んでいれば良いのに、誰一人として反省の欠片もないところが厚かましい。

 まあ、見ていると総裁とか代表とかの埒外にいる人も含めて何人かのまともな政治家がまだいる事は事実である。ただ、今の政党の枠ではそうしたまともな政治家はどうも表にでてきそうもない。ということは今度の総裁選、代表選の一番のポイントは、「そういう政治家が出てくる素地を作れる人を選ぶ」ということと、そういう枠組みに政党の在り方を作り直すということではないかな。

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