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老人の戯言:(号外)長崎原爆投下の日に思うこと

 長崎原爆の平和祈念式典にイスラエル大使が招待されなかったために、米国・英国を含め6カ国と一地域の大使が欠席をするというニュースがあった。互いに批判し合うような、或いはそれを使嗾するようなニュースも見られるが、勘違いも甚だしい。この話は自由主義国家において「何を優先するか」の話であって互いに批判し合うような話ではない。そもそも「原爆被害を受けて平和と戦争の放棄を旗印にする長崎(日本?)」の考えと海外の「イスラエルとロシアを同等に扱うべきではない」という主張は噛み合う話ではない。同じ民主主義・自由主義の陣営でも「何を優先するか」という点では必ずしも一致しない事があるという事実を顕在化したに過ぎない。
 長崎は本来「我々はいかなる状況でも戦争を放棄するという日本憲法の精神に基づいて式典を行うために、例えその態様に差があっても戦争の当事国に関しては招待を差し控える。それによって出席を控える国家があった場合は、当事国の判断を尊重するが、戦争が終結した場合には改めて当該国家に参加を求めることもありえる。その際はともに平和を祈念しあいたい」という説明を「できるなら」すべきであった(「できるなら」というのは記事に於いてはウクライナが招待されているかがわからなかったからで、もし招待されているならこの説明は不可能だからである)
 僕らは様々な対立を今、見ている。ロシアとウクライナ、イスラエルとガザ、アメリカの民主党と共和党・・・それぞれの対立には双方の言い分が存在することは理解できる。しかし、やはり物事には見方の「切り口」というのが必要で、それは先に述べた「優先順位」を基に考えるしかない。
 「平和」というのは理念ではなく「状態」なので、どのように「平和」を実現していくのかという具体的で現実的、かつ理念に合致した手法がないまま「平和」を切り口に全てを判断しようという手法は取り分け欧米などに対しては難しい主張である。「世界が独裁状況のもとの平和」という状況も理論的にはありえるわけで、「価値」として主張するのはできるが・・・。
 きちんと説明する必要は、今回については長崎の方にあったのだと思う。なぜならば「招待しない」という行為を行った以上、その「行為」に対する説明は実行した側に存在するからである。

 日本はあらゆる主張をする中で「根源的な価値」と「二次的な価値」を切り分けて行動していく必要がある。さもないと、ロシアに媚びを売っているような政治家が「正しい行為」をしているというような誤解が生れるのだ。ロシアとの経済的繋がりや領土的な問題は確かに重要であるが「根源的ではない」。今のロシアに媚びを売りウクライナを批判することは「いざ、ロシアが日本を攻撃した時に真っ先に国を売るのは誰だ?」という図を明確にしただけで、民主主義とか自由とかという根源的な価値を「二次的な価値」より下に持って行くという政治家もいるのだ、という呆れた現状を露呈するだけなのだ。

 僕はイスラエルが全て正しいと言っているわけではない。「明らかに被害者」であるウクライナの主張に比べてイスラエルの主張は「加害者的」に見えるのは事実だ。しかし・・・実は僕はハマスという組織を評価していないのである。同時にハマスと繋がりのあるヒズボラやフーシ派なども同様に評価していないのだ。なぜなら彼らは本来「政府」の持つべき第1の機能である、「国民」を犠牲にすることを平然として行っているからである。更にフーシ派のスポークスマンの映像など見ているとどうにも「まとも」にみえないのである。見えます?ほぼ海賊ですよ、彼ら。海賊も「正義」を語る世の中なのである。
 そもそも今回の攻撃も先制攻撃はハマスの方から仕掛けたわけである。その背景に様々な理由や歴史があるのは承知しているが、先制攻撃を掛けた上で「ガザの市民がイスラエルによって虐殺されている」と言いつつ、「市民の間に隠れるという」形で逃げる人たちを僕たちは評価して良いのであろうか?「ガザの悲劇」を引き起こしているのはイスラエルとハマスの双方なのだ。
 「ガザ市民の虐殺」という形の報道も「イスラエルの非道」と共に「ハマスの卑怯」を同時に伝えるべきであるというのが僕の考えである。更にこの戦争がウクライナ戦争という背景を背負っていて、その後ろにイランをクッションにしたロシアの関与が疑われるというのは「冷戦構造」を国際政治学で学んだ事のある身としてはすぐに想起される繋がりである。

 まあ、最後の文脈に関しては何の明確な根拠もあるわけではないが、国際政治においての「平和」はどうやって「実現」するかの状態であり、それを旗印として主張することは可能であるが、「平和」を旗印にした「論争」は避けた方が賢明である。もちろん、僕は「平和主義者」であるのだけれど。

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