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「知らなかった」と放言する経営者と「日本の恥と劣化」

とある中古車販売会社が今、問題を起しニュースになっている。端的に言えば保険金詐欺やら器物損壊やら労働基準法違反やら犯罪の宝庫みたいな中古車販売会社らしい。おおむね中古品を扱う会社というのは物を作ったり、それを販売したりする会社に比べてモラルが低くなりやすい可能性が高い。「としよりの戯言」というエッセイに「Economia Mala」(悪い経済)という一文を書いている途中であるが、その典型的なケースなので先行して一筆、認めたいと思い立った。
中古品というのは売却するにも購入するにも相場というのがはっきりしないので、どちらのフェーズでも素人に対してインチキがしやすい。対象が着物だろうが本だろうが、リサイクル品だろうと下手をすれば不動産に至るまで会社側の方で行うインチキが罷り通りやすいのである。だからこそ経営陣はモラルの維持に努めなければならない。
 この事件のもう一つの背景であり、この会社が「コア事業」と謳っている保険も往々にしてインチキの横行する業界である。ユーザー側にも問題があるケースも多く、保険金詐欺という犯罪もある。保険金詐欺はユーザー側にとってデメリットであるために保険業界というのはユーザーのためという口実のもとにしばしば支払いを渋る。日本の大手保険会社が保険の不払いという事故を起こすのはそういう背景がある。ちなみに私の家族も死亡してから6年経ってから「給付の可能性がある」という連絡を受けたことがある。大抵の病院は死因に関する書類を6年以上保管しないので、それを見計らって通知をしてきた可能性がある。たまたま病院が書類を保存していたおかげで給付を受けることが出来たが、こんなのはインチキの一歩手前である。
 ジェフリーアーチャーというアメリカのミステリー作家がRainmakerという小説を書いていて、保険会社が約款を誤魔化して病人への支払いを拒むという、これは悪徳保険会社を描いた小説であり、保険というのが怪しいのは洋の東西を問わない、らしい。だものだから保険会社というのは民事・刑事の事件の背後にしばしば存在する。ただし、今回は保険会社が自らの商売のために中古車販売会社のいいなりになって、保険金を誤魔化し、一方で保険契約をたかるというとんでもない構図であり、先ほど描いた保険支払いのインチキより更に犯罪性が高い。この犯罪には明確に特定される被害者がおらず、保険という制度を逆手に取った犯罪であるからで特に積極的に加担した保険会社はもはや保険業界から駆逐されなければならない存在である。彼らは「職業的倫理をもたない集団であり保険という仕組みに対する最大の敵」である。

 話を戻そう。中古車販売会社というインチキが罷り通りやすいこの会社の最大のインチキはどうやらその経営陣らしい。この会社の収益源は中古車販売を通した保険代理店の営業であるらしく、辞任した社長がそう断言しているにも関わらず、その肝心のところで不正が「天地神明に誓って」自分の知らないところで起きていたと言い放った。
 そもそも経営者が自らの会社の行っていたことを「知らなかった」というのは恥である。「最大の恥」である。それに彼らのビジネスモデルは「知らなかった」といえるほど複雑な物ではない。せいぜい4つか5つかのビジネスの組み合わせに過ぎない。天地神明に誓って知らないというのは、最大級の恥を自ら晒したのである。こういう無能を恥ずかしげも無く晒してでも人に責任を押しつけるというような会社と経営者は潰してはならない。放置しても顧客が離れ倒産に至る可能性はあるが、そういう生温い措置ではならないのだ。
 こういう会社は政治としても行政としても叩き潰さなければならないのだ。こういう会社がのうのうと生き延びては、その属する産業が駄目になるだけではなく、日本の社会そのものが劣化するからである。保険会社についても同じ症状ならば経営陣を含めて総取り替えをするか会社そのものを処分しなければいけない。

 保険会社の処分は金融庁が行うことになるだろう。どういう判断をするのか見物である。中古車販売会社の方は金融庁、国土交通省、警察庁が絡む構図となるがどの省庁がまともな処分を下すのか、これも興味津々である。まともな行政や司法による処分が下されることを望むのみである。

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