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蝉の声

 近くの神社で、今年初めて蝉の鳴く声を聞いた。例年より随分と早いが確かに聞き覚えのあるアブラゼミの鳴き声である。去年は確か梅雨が明けて少し経ってから、ということはおそらく7月の中盤以降に初めて聞いたように思う。むしろ、いつになったら蝉の声が聞えるだろうと不審に思っていたくらいであるから、今年の早さは際立つ。
 子供の頃は夢中になって昆虫採集を行っていたので蝉には今でも少し関心がある。昔はニイニイゼミとか法師蝉とか松蝉とか、或いはカナカナ蝉など様々な蝉を見たり聞いたりすることが出来た。その頃は新潟に住んでいたせいもあるだろう。東京に移ってからはアブラゼミが主流だったけれど通っていた中学校の近くにある浦和の別所沼では、産まれたばかりの法師蝉を手づかみで捕まえていた記憶が指先に残っている。
 いつしか東京ではミンミン蝉が随分幅を効かせ始め、最近はクマゼミの鳴き声も聞えるようになってきた。20年程前に湯河原で初めてクマゼミの鳴き声を聞いたときは少し嬉しくなったと同時に、温暖化を心配したりしたものだが生物は間違えなく隙を突いて生存圏を拡大していく。逆に住む環境を失った生物は音もなく消えていくのだ。
 そういえばタチアオイの花が咲き始めたのだけど、普段なら下の方から咲いていき、てっぺんが咲く頃に梅雨明けすると言われる花が乱れたように上にも下にも咲いている。天候も梅雨と夏が入り交じったような具合である。
 今年初めて聞いた蝉の鳴き声が何を意味しているのか、少し心配だけど、夏は蝉の声と共にやってくるというのが僕の経験則である。
 もう、夏なのかも・・・しれない。

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