癌の手術を終えてから1年が経過した。手術後、昨年中は二度の化学療法のために入院し、今年になって以前から患っていた下肢静脈瘤のカルーテルによる焼灼手術を行った。この手術は日帰りではあるが一応全身麻酔が必要な手術で、この一年の間に一生分の病気と「その治療」をしたような気がする。
幸いなことに今のところ癌の再発はしていないが、マーカーの値はまだ十分に下がっていない。手術と化学療法に伴って残る症状は、倦怠感・左後背部の痛みが主な物だが、もっとも影響が残ったのは食事である。とにかく量が食べられなくなったし、迂闊に適量を超えるとたちまち気分が悪くなる。睡眠も以前に比較して夜中に目覚めることが多くなった。だいたい二時間の睡眠を二・三回繰り返すのがパターンで、それでは十分でないから昼前後に1時間ほどの睡眠を取るというのが定着した。やはり以前と病後で比べると生活の質(QoL) がかなり落ちたというのが現実だろう。とはいえ、下手をしていればもう死んでいたかも知れないわけで、行き所を失った不平不満は飲み込まざるを得ない。
生活習慣もだいぶ変わった。運動に関しては、散歩以外はやってこなかったので今も大して変わらない。一日歩く歩数は11000歩位、距離にすれば8キロくらいであまり変化はないが疲れやすくなったのは事実である。今までなら平気で目的地まで歩き通しだったのが時によっては途中で休みを取るためにベンチに座ることもある。iPhoneをもっていると自動的に計測することが出来る指標の一つに歩行非対称性というのがあるが、術後には一挙に悪化した。今では元通りに回復しつつあるけれど、以前ほどまでに低くない。要は歩くときに体がふらつく、という事なのだろう。
煙草と酒はどちらともやめることにした。煙草は手術をする事になった病院で正式に癌だと診断を受けた日に止めた。それまで日に1箱から1箱半は吸っていたので、止めるのはなかなか難しかったし、手術までは日があったので一気に止めないという選択肢もあったのだけど、それでは治療をする医師に失礼な話であると考え直してきっぱりと止めた。以前からかかりつけの医師にも酒・煙草はやめた方が良いと言われていたのだが実際に病気になるまでは止められないものだ。酒の方は煙草に比べれば止めるのは難しくないが、煙草は酒より常習性が高く、止めにくいので中途半端に対処するのは難しい。最初の内は苦しくはあったが、既に止めてから14ヶ月が経ったことになる。酒の方は養命酒を飲んでいるけど、それを口にしただけでも少し酔った気になるので相当弱くなっているのだろう。以前は一晩中飲んでいても大丈夫だったのに・・・。
煙草をやめたことは、おそらく「物を書く」という作業にプラスには働いていない。ただでさえ、病に伴う様々な要素、例えば疲れやすい・睡眠不足・それに伴う気力の低下や集中力の欠損など、マイナスの要素には事欠かないので、どれが決定的な要素なのかは分らないけど、書くという作業が元に戻るまではまだしばらくかかりそうな気がする。今は、小説はほぼ書いていないけど、構想はあるし、そのタネもぼちぼちと集めている。とは言っても「竹の下の皇」や「古事記異伝」「秋茜集う丘 勇魚哭く海」などの資料集めは、半端ではない資料集めが必要だったのに比べ、そこまでの気力はまだないだから。「資料」よりも「アイディア」による小説にならざるを得ない。それが始まるまでは音楽や小説、その他のエッセイを細々と書いていこうと思っている。良ければ読んでみてください。