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井上成美邸のこと 1

「秋茜集う丘、勇魚哭く海」を着想した頃、その登場人物の一人である井上成美の旧宅があると聞いて、日帰り旅行がてら訪ねたことがある。当時はもちろんCovit19の騒ぎなどはなく、京急の三崎まぐろ切符というワンデーチケットを買って電車に乗った。今はどうか知らないが、その頃は三つの優待付きで、その一つは昼食に残りの二つはバスとレンタサイクルに使えたので大変お得で便利な切符だった。
昼前に三崎口に到着し、まずは腹ごしらえと地図を片手に海岸近くの食事処へ行って海鮮丼を食べ、そのあとバスで城ケ崎まで行って灯台を眺めたあとに、三崎口の駅に戻りレンタサイクルを借りた。レンタサイクル屋さんに
「井上成美の邸の跡があるって聞いたけど、知りませんか?」
と尋ねると、
「ああ、なんか偉い大将の家があるって聞いたことがあるけど、場所はしりませんねえ」
と井上ならば、むっとしかねない「偉い大将」という言葉を使ったのがおかしくて小説に使わせてもらいたいと思った。

しかし知らないというのでは仕方ない。スマホで情報を確認しつつ、長井という町名と番地を手掛かりに三崎口から北へ自転車を走らせたが、左折して海岸の方にでる場所が分からぬうちにいつのまにか空自の武山分屯基地が現れ、更に陸自の高等工科学校が見えてきた。そこまで行くと長井でさえなく、慌てて引き返し、信号を海岸の方向に右折した。そのまま走り続けると道は狭くなりどん突きに公園がある。更に海岸沿いに自転車を走らせていると小さな漁港があった、どうやらこのあたりかと思い、そこから崖の上に向かって自転車を走らせたがなかなかみつからない。

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