🐺「慶春、御目出度く申し納め候。益々麗しく御越年遊ばされ恐悦に存じ奉り候…いや、これ書くの面倒だな。しかも今年は若干、謹賀新年ムードじゃないようだし」
👭白「あれ、章兄。今頃、年賀状のお返しを執筆してるのかな。しかも手書きで」
狼「うん、手書きだね。プリントゴツコの豆電球が切れちゃって、印刷できないんだよ」
👭極「そのネタ、最近どこかで使ったであります」
狼「そうだっけかな。しかし、手書きは面倒だし、文面を短くしよう。『あけおめちゃん♪』って、こんなものだろう、実際」
白「それはヌルくなり過ぎでは…まあ、良いんだけど、新年一回目の近況ノオトなんだし、シャキッと行こうよ」
極「もしや、バラマキ政策のブースト案を披露とか?」
狼「それにつきましては、関係各部門と緊密に連携を取り合い、可及的速やかに検討する所存です」
極「政治用語を翻訳したところ『やらない』若しくは永遠に『先送り』ということであります。詰まり、現状維持」
白「ほら、最初に下の寫眞をご覧下さいってやつ忘れてないかな」
狼「そうそう下段の寫眞。んん、これ普通の町並だなあ。しかも下手っぴだし」
極「御伽噺の帽子の子が撮ったとか。あの娘、言葉遣いが大人びていて、不躾ながら、実年齢は……うう、ぐへっ……であります」
白「それ、お約束なんだよね。一応、突っ込んどいてあげる。で、章兄、何の寫眞なのかな?」
狼「これが現在の富士見花柳街なんだって。うーん、掲載する意味があるのなあ、これ」
極「建ち並ぶのは鉄筋のアパアトでせうか。変哲のない都心部の住宅街であります」
白「自輾車が二台。芸者さんの箏を運ぶ車屋さんかな。ここは人力車じゃないんだ」
狼「違うでしょ。そこは余り触れないほうが良さげ。兎も角、花柳街の俤(おもかげ)は全くないんだ」
極「現地入りした座付き作家によると、末代と思しき料亭が二軒か三軒あったとのことでありますが、伝来は不明とか」
狼「會社のオフイスもあるようだし、新規の料理屋があっても不思議じゃないしね」
白「これは靖國通りと並行する筋で、奥が市ケ谷驛方向だって」
狼「確かに道は細いけれど、名残りはないなあ。まあ、それも然て置き、この富士見花柳街ってのは、表現上、少し厄介なんだよ」
白「どゆこと?」
狼「ええと、今から六年前の昭和八年に東京市の地名変更があって、富士見町の半分くらいが九段になったんだ。靖國通りの南側だね」
極「時制がバラバラなのであります」
白「じゃあ、例の怪しい古本屋は正確には九段にあるってこと?」
狼「そうそう。富士見花柳街そのものが富士見町にないんだ」
極「面倒であります」
狼「そこで作中では『九段富士見』というどっち付かずの表現が出て来るんだ。説明すると、余計ややこしくなるしね。しかも、花柳街はバブル期の地上げで、往時の風情を残した見世もなくなったらしい」
極「だから時制が…いったい、今は何時代なんでありませうか」
白「実際はどう呼ばれていたのか、難しいかもね」
狼「通りの名称も同じで、靖國通りの始まりも不明。九段坂の大普請の後に開通し、東京市は『大正通り』と名付けたんだけど、通称のほうがポピュラーになったらしいんだ」
白「そうなんだ。作中では悩んだ末に『大正通り』を採用したらしいけど、当時はどっちだったのかな?」
極「いや、当時とか『だったのかな?』ではなく、現在が昭和十四年なら、そこらの東京府民に聞けば解決するのでは…」
白「微妙な空気感なんで、そろそろ終わろう。で、あれ、今年も宜しくお願いし〼。とか、挨拶はないのかな?」
狼「もう微妙な日付かと」
極「だいだい、このノオト自体、元日か二日にアツプする予定だったのに、座付きが珍しく報道に熱中していて、忘れてたであります。やれやれ」
狼「箱根驛傳かなあ? 六大學の」
白「ああ、麹町区の讀賣新聞社が小旗を配っている競技大会だね」
極「最後に無理やり時間軸を整えたのであります」
(寫眞撮影:くろまどうし さふぃ じゅっさい)