双子ちゃん①👩🚀「東京港? そんなの聞いた事がないなあ」
一寸法師👦「おいら知つてるぞ。横濱のほかに帝都にも埠頭を造るのさ」
双子ちゃん②👩🏭「本日、参るのは其の東京港の中程であり〼」
とある年の師走、少女と思しき双子と侏儒の軽業師は、東京市で催される展示即賣會に足を向けたのであつた。
👦「石川島じやなくつて月島四号地の辺りかな」
👩🚀「それなら知つてるよ。最近、晴海つて名前が付いたんだよね。あれ、會場は其処だつけ?」
👩🏭「晴海は薄い漫畫本の即賣會が開かれる場所であり〼」
👩🚀「さうだつけか? 万國博覧會が盛大に開かれるところだね」
👩🏭「否、万博は中止で、東京市庁舎の移転もポシヤつたであり〼」
👦「晴海じやないのか……」
👩🚀「コミケは盆暮れだね。今日は小説の即賣會らしいよ」
👩🏭「文學フリマでござる。春先にも一緒に参つたではないか」
👦「鈴ケ森刑場の怨霊に祟られて迷子になつた挙句、遅刻したんだぞ」
👩🏭「今回は、より大きな施設で催されるやうであり〼」
👩🚀「分かつた。台場跡地の國際展示場だね」
👩🏭「左様。高架式の市電が通じているはず」
陸軍省の管轄下にあつた御台場は、東京市に払ひ下げとなり、昭和三年に台場公園として整備される。
👩🚀「何やら地下鐵の驛舎で降りたし。上野澁谷間のほかにもあつたんだ」
👩🏭「國際展示場驛であり〼。数分ほど歩き、市電の高架を潜つた先かと」
👦「お、へんてこな建物が見えて来たぞ」
👩🚀「さう言えば、今日は座付き作家も来るんじやなかつたつけ?」
👩🏭「座付きは先月二十九日の正午過ぎから多忙になつたとか」
👩🚀「妙に具体的だね。忙しひとか言つて實は新作ゲヱムを遣り込んでゐるのでは?」
👦「それはないぞ。夏頃にPS4のコントロヲラが壊れてから絶つてゐるんだ。本體の電源を入れても続きの操作が出来ないらしい」
👩🚀「遊んでないで執筆しろつて事だね。あはは」
ややあつて三人は「文學フリマ丗玖(39)」の会場に到着。時刻を検めると十四時丁度で案の定、遅刻した。
前回は大幅に遅れた上、悠長に喫茶してゐたところ、幕引きの頃合ひとなり、目当ての純文學コオナアに辿り着けなかつたのである。
本日は早々に準備したものの概ね順当に遅れ、残り時間か限られる事態となつた。懲りないもので、反省が足らぬ。
👦「うわあ、凄え人波だ。おいら目がくらくらしちまふ」
👩🚀「へえ、木戸賃を徴収するやうになつても、逆に増えてゐる感じ……」
👩🏭「先行きが明るひであり〼」
👩🚀「文部省の怪しいおぢさんに要注意だね。御菓子を貰つちや駄目だよ」
👩🏭「變態司書はともあれ、此れが木戸で頒布されてゐた専用の冊子でござる」
👩🚀「ええと、純文學のシマは何処かな」
👦「割と目立つ『さ-50』から『せ-40』辺りだぞ」
👩🚀「結構、あるなあ」
多ひのはエッセイや体験記を含むノンフィクション部門なれど、詩・俳句・短歌も充実してゐる。小説は細かくジャンル分けされ、探偵推理物や空想科學系等、従来の区分に加えて百合・BLも豊富に取り揃えてあつた。
👩🏭「とんと見当たらぬ」
👦「探し物があるのかい?」
👩🏭「實は座付きから特定の作家氏の作品を購入するやう依頼されたのだが、冊子の名簿欄が長大で難儀してゐるであり〼」
👩🚀「某小説投稿サヰトで交流がある作家さんかな?」
純文學系の洗練された作家、詩歩子さんである。
(カクヨム著者ページ=
https://kakuyomu.jp/users/hotarubukuro)
該当しさうな書林の列を往復するも目視できず、さりとて冊子の配置表記からも確認が叶わなぬ始末。取り敢へず、西ホオルを出て海濱を観に行つたり、禁断症状を發して一階で珈琲を呑んだり、と焦つてゐる割に休憩が多ひ。
前回の二の舞と成りさうな気配……此の時点で木戸を潜つてから数十分が疾うに経つてゐる。再度、奮起して大衆小説の界隈を渉猟するも手掛かりは無し。
👩🏭「刻限も近し。徒労に了りさうな豫感が無きにしも非ず」
👩🚀「閉幕は十七時だよね。諦めるには早いかも」
👩🏭「十六時半前後より撤収作業が始まるのであり〼。前回の失態を顧みて肝に銘じたのでは?」
👩🚀「ううむ、また遅刻が原因かあ」
双子が断念し、購入した数点の圓本を背嚢に詰めて帰り支度を始めた頃であつた。
👦「おお、おいら見付けちやつたぞ。ほら、目の前だ!」
不図、視線を移すと、其処に見覚えのあるペンネヱムの刻まれた著作物が飛び込んで来た。列の先頭、嘗て讀んだ作品が綺麗な本となつてテヱブルに整頓されてゐる。
適当に散歩してゐた挙動不審の一寸法師が、最後の最後に手柄を立てた次第であつた。
此れ摩訶不思議也。僥倖を得たり、気運も上々。斯くして冬の始まりの佳き一日と成りにけり。
(寫眞撮影:福助)