小柄な軽業師👨🦲「鈴ヶ森って風流な名称だな。秋には鈴虫が鳴いてそう」
双子②👩🏭「旧幕時代の処刑場であります」
双子①👩🚀「そうなんだ。でも高層の集合住宅がたくさんあるよ」
👩🏭「土地の曰因縁を知らぬ者が購入するであります。生粋の江戸っ子は近寄る由もなし」
👨🦲「おいら間違えた。これから行くとこは平和島だ。そこは、きっと穏やかな島のはずさ」
👩🏭「競艇のメッカであります。いわゆる公営ギャンブル。庶民の賭け事は兎も角、胴元関連で運輸省が丸ごと消滅、いや、看板を掛け替える事態になったであります」
👩🚀「いきなり昭和裏面史になっているし……テーマと全然関係ないばかりか、タブーに触れちゃってるよ、たぶん」
👨🦲「おいら、ちんぷんかんぷんだぞ。日本の黒幕の話は聞かなかったことにして、取り敢えず、目指すは平和島。そろそろ高架鐡道が見えて来るはずなんだけど」
👩🚀「そう言えば、福坊先輩が汽車好きって設定もあったよね。一年半くらい忘れてたよ」
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とある年の皐月中旬、小柄な軽業師と美形の双子姉妹は命を帯びて、東京府平和島にて催された「文學フリマ卅捌(さんじゅうはち)」に参りました。
👨🦲「おお、やっと会場に着いたぞ。えらく歩いちゃったな。よもや京濱電鐡の駅舎からこんなに離れているとは」
👩🏭「しかも公園と高速道路下の淋しい道だったであります。帝都なのに殆ど人と擦れ違わなかったという」
👩🚀「愚痴はさて置き。いや、このタイムロスが後で命取りになりそうな予感も」
👨🦲「うわあ、混雑してるな」
👩🏭「大盛況であります」
👩🚀「今回から入場料を徴収するようになったんだよね。来場者が大幅に減るかと思いきや、そうでもないし」
👨🦲「あれ、漫畫本がないぞ……」
👩🚀「文學フリマだからね。基本的にコミツク類はないよ。ああ、福坊先輩が行きたかったのは、別の場所のイヸヱントだね。年に弐回、盛夏と歳末に晴海埠頭で開催しているやつ」
👩🏭「晴海埠頭? 今は有明方面かと……いったい姉やは、いつの時代を生きているのやら」
👨🦲「第一会場と第二会場? ふたつの大型ホヲルでやってるんだ」
👩🚀「先ずは第一会場だね。あれ、出版大手のブウスや某ウヱブ小説投稿サイトのテナントもある」
👩🏭「それは僅かであります。大方は、個人とサアクルの私家本かと」
👩🚀「売り子さんの前で立ち読みするのは、ちょっと気が引けるかも」
パナマ帽の司書👨🌾「勃ち読み……おっと、そこの坊や、甘ったるい洋菓子は好きかな?」
👨🦲「あ、おいらの好物のシベリアだ。おじさん、貰って良いのかい?」
👩🏭「胡乱なパナマ帽の男が馴れ馴れしく話し掛けて来たであります」
👨🌾「簡単に釣れた。いや、こっちの話。坊や、ひと回りする前にトイレに行ったほうが無難だよ。ええと、トイレは入り口手前の階段横に……」
👨🦲「おいら、催してないぞ。さっき、道路脇で立ちションしたばっかだし」
👨🌾「なんと!」
👩🚀「ええと、パナマ帽のおじさん、福坊に何か用かな? って言うか、すっごく怪しいんですけど、何者?」
👨🌾「小職は文科省のスーパーキャリアで、嘗ては国立国会図書館で働いていたり。ここでは有志のボランティアのような親切な役割を担っていて……」
👩🏭「恰も有志じゃないボランティアが居るような言い分。如何とも胡散臭い。危険な香りがぷんぷんであります。福坊先輩、離れましょう。後は自分が対応するであります」
👨🌾「いや、婦女子は別にどうでも良くって……仕方ない。今回は引き下がるとしよう」
👩🚀「去って行ったし。あのおじさん、女の子には興味がないんだね」
👩🏭「勘違いしてくれたであります。それでは気を取り直して会場を巡りましょう」
👨🦲「シベリア食べたら、おいら喉が渇いちまった。あそこのカフェヱで休憩しようよ」
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再び会場に戻ると、売り子衆は何やら台上の書籍を纏め、箱に詰めておりました。とても吟味する雰囲気ではなし。次いで会場にアナウンスが響き、販売の終了が告げられた次第で御座ゐます。
<後日>
狼男編輯長🐺「あれれ? 白夜、これ全然、文學フリマのリポオトになってないんだけど、どうゆうこと?」
👩🚀「気が付いたら、閉幕時間になっちゃったんだよ。メインの短編小説部門に到達できなかった……」
🐺「全然、見てないの?」
👩🚀「そうそう。十捌(じゅうはち)時終了と思いきや、十柒(じゅうなな)時で撤収だったんだよ」
👩🏭「遅れて入場した挙句、カフェヱで寛いでいたら、終わり間際になったでござる」
🐺「ござる、じゃ済まないよ。これさ、純文學の可能性とか、そんな野心的なテーマで、近況ノオトをアツプする予定だったのに、まったく」
👩🚀「それでも見本を読んだりして、何冊か買って来たし」
👩🏭「例えば、この研究本。『女装文化の歴史』とか」
🐺「小説じゃないし。それって誰かの趣味だよね。他には?」
👩🚀「ええと『本讀 女淑士紳』かな」
🐺「反対から読むんだよ。昔の本なのかな?」
👩🏭「時間が差し迫った故、間際に表紙買いしたであります」
👩🚀「昭和モダン体って言うのかな、そんな活字がある表紙の本を買ってみた」
🐺「悪くない選択だね。いや、それも小説じゃないし、困ったな」
👩🏭「次回の文學フリマは、福坊先輩を伴わずに行くであります」
🐺「半年以上も先送りか……」
👩🏭「連載すると謳っている新作も先送りであります」
🐺「そっちは来週ぐらいだから、小幅だね」
👩🚀「さらっと告知してるし。あれ? 今回の近況ノオトは、カクコン玖(きゅう)関連の何かじゃかったの?」
🐺「ああ、最終選考の発表があったカクコン玖ね。特記事項はないな。ほら、それってさ、年初の挨拶で『歳末ジャンボ当たりましたか?』って聞くようなものだし、無粋と言えば無粋かな」
👩🏭「分かり難く、亦(また)、微妙な比喩であります」
👩🚀「皆様とは来週ぐらいに新しい御伽噺でお会いしませう」
👨🌾「そんな訳で、今年は『猫田😾短歌集』はないよ」
👩🚀「怪しいパナマ帽の役人。何故、編輯部に!」
👩🏭「最後に付け加えておくと、絵文字の人が被っているのは麦藁帽であります」
*取材協力&寫眞撮影 サフィさん14さい(職業:くろまどうし)