せっかく長い書評を書いて貰ったのに困惑することがあります。
「歌舞伎町のストリップクラブで働く蒔絵と、曲芸団の異端児である栄一郎という二人の人物が、人生の苦悩や孤独、そして絶望を乗り越えようとする姿を描いた物語です」
はて、何のことでしょうか…どこをどう読めば?
引っ張っても誤解を招くだけなので、早々にタネを明かしますと、これは話題の対話型AI「chatGPT」による作品紹介です。恥を忍んでエゴサしましたw
「物語の冒頭では、ストリップクラブで働く蒔絵が、客たちからの嫌がらせや過激な要求にさらされながらも、生き残るために必死で努力している様子が描かれています。そんな中、蒔絵は曲芸団のパフォーマンスを見に行き、そこで栄一郎と出会います」
歌舞伎町の怪しいクラブにお勤めのようです…初見では苦い笑いしたけれど、登場人物と微妙に重なっていることに気付きます。
蒔絵=耶絵子 栄一郎=章一郎
他人の作品の女性キャラを風俗送りにするとは、どういう了見でしょうか。勝手に服を脱がさないで下さい!
しかし、AIがネット上に公開されている本作を閲覧し、参考にしたことは確かです。仕組みは不明ですが、質問してから数秒程度で、五百文字余りの紹介文が作成されるとは驚きです。
「二人は出会い、お互いに惹かれあいながらも、それぞれが抱える問題に直面していきます。蒔絵は、ストリッパーとしての自分自身と向き合い、栄一郎は、自分の芸を見失いかけるなど、それぞれが苦悩しながらも、自分の居場所を求めて奮闘します」
このAIはストリップ要素がお好きなようで繰り返し、計四回も綴ります。若干、しつこいです。
ただ、簡単な物語の粗筋とは言え、数秒で創作するとは…気になったので、物語を作ってくれないか、聞いてみました。
質問「因習にとらわれた限界集落の怪談を考えてください」
回答「ある日、限界集落の住人が一人、夜の山道を歩いていました。すると、突然後ろから足音が聞こえてきて、彼は振り返りました。そこには見知らぬ男が立っていました」(抄)
一瞬で約五百文字の粗筋が完成。展開もあって、オチもあります。
質問「恋愛小説のあらすじを作ってください」
回答「しかし、二人はお互いに異なる将来のビジョンを持っていることが判明します。彼は将来に向けてのキャリアを重視し、海外での就職を希望していました。一方、主人公は地元を離れることをためらい、彼との将来に不安を抱えるようになります」(抄)
それっぽいストーリーが降って湧いてきます。どんなジャンルの粗筋創作を依頼しても、それなりの回答が来ます。所要時間はやはり十秒未満。
創作サイドからしますと、結構な問題のように思われます。エピソードのアイデアを捻り出すという根幹部分をAIに丸投げすることが現実的に可能なのです。
もちろん、一編の小説に仕上げるには技量が必要になります。しかし、物語の着想は、100%書き手の資質に依存するもので、テクニックでカバーすることは難しい。最重要の部分と言えます。それをAIが代替してくれるのです。数秒で「パクリ」が可能になったと言えなくもない。
文芸界では剽窃事件が度々発覚し、社会問題に発展することもあります。一方、ネット小説では剽窃の問題はレアケースです。理由は単純。パクってみたところで、検索にかけて調べれば、すぐにネタ元が判明するからです。
ところが「chatGPT」の回答は非公開のプライベートです。第三者にネタ元が発覚することはなく、誰も裏を取れません。ここの回答例からパクっても著作権法上の問題はなく、やりたい放題です。(今後、判例が出るかも)
これから、創作の世界はどうなるのでしょうか? 不安を覚えます。
現段階では、生成される粗筋も陳腐で、優れた短編小説が自動的に完成する気配はありません。けれども、AIの進化は速いようで、数年後の課題ではないとも考えます。実際、AIイラストが絵師の領分を侵蝕し始めました。
その中、私は「chatGPT」を調べもの以外で、執筆関連の作業に用いることはないと宣言しておきます。