「ぱかっと開く岱赭色の小石」「石の中は空洞で結晶が尖った歯のように…」「小さな鍾乳洞」
拙作『隻脚娼婦館』第十二話に登場する“謎の石”は、適切な比喩が浮かばず、どれも納得できないばかりか、仔細に描写するほど実物と掛け離れて、どんどん意味不明になっていく…そんな八方塞がりの状況に陥った作中の小道具でした。
https://kakuyomu.jp/works/16817330654297914841/episodes/16817330655189317953「せや、写真見せたら、ええんちゃうやろか」と安易に考えた末、ここに掲載する次第になりました。
ご興味がある方は、すらすらとスクロヲルされまして、文末に掲載している写真をまずご覧になって下さい。末尾です。ずっと下の方です。一旦、深淵サイドに堕ちて、再び天上界にお戻りくださいまし。(総合司会:耶絵子)
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お帰りなさいませ、ご主人様♡ 上下のスクロヲル、乙であります!
写真に変なものも写ってた? それは後で述べますので、まずは石の件です。
【Aパート:クリスタル工房で遭遇したパワフル野郎編】
クリスタルの概念から外れる石英でしょうか。一部には柱状節理の結晶もあります。この物体・物質、商品を何と呼ぶのか、全く存じませぬ。検索するのに四苦八苦するのです。
しつこく画像検索したところ、「パープル・アメジスト」「シー・ブルー・クリスタル」という名称の商品が出てきました。どれも美麗で、巨大なものもありますが、鶏卵サイズだと廿二〜三廿六ユーロくらいの値幅です。意外と安い?
一方、私が入手した写真の石ころは、ひとつ当たり二百円以下でした。ガシャポンより安い…ガチャガチャ回して缶バッジとかゲットしている場合ではありません。
安さの秘密は、購入先がインドだったからです。朝メシ屋台のモーニング・セットが五廿円未満の世界だし。それはさて置き…
この謎石を売っていた場所は、クリスタル工房でした。商品が美しく陳列されるでもなく、木箱に地味な色合いの石がぐしゃっと積まれ、値札が置かれている。そんな雑な、商売っけのない感じでした。
その工房にお邪魔すると、隅から妙な声が聞こえてくる…
先客が居ました。スポーツマンタイプのヨーロピアン男性です。「ウラア」みたいに小さく叫んでいます。最初は怖かったので横目で瞥見しました。叫び声と共に手に握るクリスタルをぐっと目の前に力強く引き寄せ、じっと睨む。ひとつは、こっちに。もうひとつは、あっちに…何らや真剣に選り分けていることが分かりました。
アクションが余りにも派手で面白かったので、思わず話しかけました。「何してはるん?」と。男は真顔で、こう言いました。
「パワーを見てるんだ」
そのヨーロピアンは一般人には見えない何かをクリスタルの中に見出し、可と不可を選別していたのです。品質=含有するマナ量のチェックでしょうか。私は「お、おう」としか返せず、その後、会話が弾むこともありませんでした。何より彼は本気で、集中している感じだった…
ニューエイジ&スピリチュアル系の聖地みたいな街で、附近には「霊氣(REIKI)」の看板を掲げた店や特殊な占星術の館も複数あったりします。取り立てて、彼は変わった人物でもありません。そんなアトリエで購入したのが、謎の石です。
今も手元に置くと、十二話の主人公のように、繰り返し重ね合わせ、開けたり閉じたりしてしまいます。当然のことですが、当作の「俺」氏は、創作上の人物で作者とは関わりがありません。次いでに『曲藝團』の副島も作者の憧れや趣味等を投影した人物ではないのです。絶対に違うのです。
そそくさとヴァイニールを裏返し、B面(死語)に行きませう。
【Bパート:英国女性が生み出したる魔法使いの杖編】
写真の二枚目相当に、謎石よりも自己主張が激しい何かがあります。公開してよいものかと三日三晩、実際には三十秒くらい悩みましたが、意を決して掲載致しました。
こちらは、インド南部アラビア海に面した恰好の地で入手した、おいらの宝物なのでありんす。
写真に写り込んでいるのは、グリップの部分になります。計測したところ、全長は三廿センチで、さほど長くはありませんが、これを「魔法使いの杖」と言い切ってみます。ちなみに、ウィッチズ・ワンド(魔女の杖)に本物と紛い物があるのかどうか、某校の卒業生でもないので、分かりません。
女児向けの玩具や乙女向けの飾り・置物ではなく、インドのサドゥー(聖者・隠棲者)が儀式に用いる簡素な道具にオリジナルの装飾を施したものです。サドゥーの道具は使い捨ての布切れも含め、ホーリー・グッズの一種にカテゴライズする人もいます。
この「魔法使いの杖」も工房兼ショップのようなところで売られていたものです。工房のオーナーは妙齢のイギリス人女性でした。もう国籍からホグワーツの香りが漂って参ります。彼女の衣服は黒く、内部のトーンも黒が基調でした。
オーナー女性が鷲鼻や鉤鼻だったかどうか、鮮明に覚えていませんが、多分そうでしょう。髪の毛の色も不確かですが、まあ、ブロンドで概ね間違いなさそうです。
グリップの先端(杖としては底部)はクリスタルで、薄桃色の石に関しては種類不明です。杖は堅い木で、一部に筋が彫られています。削り出しは大変そうですが、オーナーの眷属が熱心に作業をしておりました。
二人の眷属は、地元民にしては洒落たサラサラヘアーで、つるっとした印象の青年。オーナー女性は子分のように二人を従えている感じです。
謎石と違って「魔法使いの杖」はやや高価で、そこそこ値が張りました。衝動買いに近く、これは是非欲しい、と思ったような…魔法で魅せられていたのかも知れません。
このアトリエを訪ねた経緯も一部不鮮明なのですが、自宅を兼ねた作業場でもあり、店舗でもあるといった風情でした。海から少し離れた、小さな丘の麓、ぽつんと建つ古い作りの一軒家。何だかファンタジーっぽいのですが、これも記憶を操作されているのかも…しかし、杖は現実に手元にあって、触れます。握った際の感触も抜群だったり。
「で、結局ホグワーツ要素はどこやねん」とお叱りを受けそうですが、ハリポタの映画ではなく、原作者の英国女性の話題になると、度々この杖を思い出すのです。製作・販売のオーナー女性は高齢ではなく、似てもいません。それでも何故か、ふと立ち寄ったアトリエの仄暗い空間を思い出してしまいます。
ハンドメイドの一点物。それだけではなく、このタイプの杖は本邦に於いて、写真にある当該の一把しかないものと自負しております。(柏原談)
お手持ちの杖を失くされたり、奪われたりしてお困りの魔女や魔道士、魔法少女な御仁がいらっしゃるかも知れませんが、こればっかりは譲れないのです。
(写真撮影:福助)