最近原稿を書く際に新たに取り入れたこととして、書き終わった原稿の誤字脱字チェックをchatGPTくんにやってもらっています。
「自分で書いたものぐらい責任もって自分で読め!」と思われるかもしれませんが、自分で書いた文章って、書いた本人だからこそわかる粗が目立ってなかなか直視しづらいじゃないですか……? しかし、chatGPTくんはそうした俺の羞恥心など気にせずチェックしてくれます。そもそもこいつの方が俺より高性能!
 時には俺の考えた最高にイカした言い回しを、「この表現ちょっとおかしいから変えた方がいいのでは?」と指摘することもありますが、そういうときは容赦なく無視します。まだ人間様の方が偉いんだ……5年10年後はわからないが、まだ今は俺の方が偉いんだ……。
 結果として、最近の原稿は誤字脱字がだいぶ減少したので(当社比)、やっぱり新しいことに挑戦するのは大事だよね。ということで新作特集金のたまごのコーナーです。
 「BSS」に斬新な要素を追加したラブコメや、異常な人物たちが集まる監獄での風変りな日常もの、高齢化社会を反映したディストピアSF、異世界に転生した男が微妙な能力で妖怪の総大将に成りあがるファンタジーなど、面白くて新鮮な小説を取り揃えました。

ピックアップ

タイトルもすごいが内容はもっと凄いぞ!

  • ★★★ Excellent!!!

 BSS……それは「僕が先に好きだったのに」の略称であり、ひそかに好きだったあの子が自分が行動を起こす前に他の男と付き合ってしまったという悲しみや悔しさを描く、情けなさの極地のようなジャンルである。

 さて、本作もそうした「BSS」を扱った一作なのだが、本作は、主人公が好きだったヒロインが他の男と付き合う程度の甘っちょろい内容ではない。なんと、ヒロインが他の男の彼女になる権利を争って、クラスメイトと髪切りデスマッチを行うのだ! しかも学校の教室で!

 こんな狂気の沙汰を行っているヒロイン二人もどうかしているが、彼女たちの想い人である男子もどこかおかしいし、それを観戦するクラスメイトや教師も妙にアクが強い。登場人物全員がどうかしているのだ! 主人公だけは唯一、内心でツッコミを入れる冷静さを保っているが、この悪夢のような光景を止めに入るわけでもなく、黙って傍観しているあたりに、BSSというジャンルの醍醐味が詰まっている。特に、熱狂と絶望の果てに紡がれるラストの一文は、このジャンルでしか得られない独自の味わいがある。

 全体的にギャグで溢れる内容となっており、本格的なBSSよりも笑って楽しく読める分、BSS入門編として最適な作品ともいえるかもしれない。また、タイトルのインパクトに負けない勢いのある、熱の入った内容となっており、BSSに興味がなくとも笑えるコメディを読みたい人には、文句なしにオススメできる一作だ。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)

世間から隔離されたヤバすぎる人たちの監獄日常ライフ

  • ★★★ Excellent!!!

 異世界に転移された勇者が、長い戦いの末に元の世界に帰還すると、元の世界が魔法や異能力が存在する異能バトル風の世界になっていた……というのは、最近カクヨムでもよく見かける展開だ。しかし、本作が異彩を放つのは、勇者がこの変貌した世界で活躍するわけではなく、即座に監獄にぶち込まれる点である。

 そして、そこにいる他のメンバーがとにかく濃い。自称魔王の爺さんや、すべてを見通す少年、神を宿した少女など、基本的にロクな人物がいない。彼らの面倒を見る医者の先生も、全身に触手を生やした名状しがたい存在だ。

 そんなヤバい人たちが集まって何をするかというと、基本的にはこの閉鎖空間でダラダラと世間話をするばかり。しかし、本作の面白さは、そんな世間話の中から漏れ出す「匂わせ」の妙にある。
たとえば、勇者は前の世界で単純に悪い魔王を倒しただけではなく、もっと多くの人間を殺してきたことが語られる。また、魔王の爺さんは、勇者が異世界に飛ばされていた間に世界をめちゃくちゃにした張本人であることが明かされる。

 それ以外でも会話の端々から、この監獄の住人たちがとてつもなくヤバいことが伝わってくるのだが、全員、ここから逃げ出そうとはせず、仲良く体操をしたり麻雀をしたりと、規則正しい監獄ライフを送っている。この平穏がいつまで続くかはわからない……というか、すでに崩壊の兆しは見え隠れしているが、このヤバすぎる面々が今後どのような化学反応を起こし、世界にどのような影響を与えるのか、注視していきたいところだ。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)

超高齢化社会×ディストピア!!

  • ★★★ Excellent!!!

 表向きは理想社会のようでありながら、その実態は政府によってあらゆるものが管理されている――これがディストピア小説の基本だが、本作はそこに高齢化社会の問題を組み込んでいる点が面白い。

 主人公の戸叶儀康は、80歳の高齢ながらも、都市開発会社の現役経営者。この世界ではアンチエイジング技術が発展し、人間は100歳を超えてもバリバリ働けるのだ。しかし、そんな儀康にもある弱みがあった。それは10年前に患った認知症だ。高度な医学の発達によって認知症の治療には成功したものの、ちょうど認知症だった時期の記憶が失われている。儀康は、この失われた記憶の期間に何が起きたのかを探ろうとするが……。

 人間の価値が政府による等級で決められ、等級の低い人間や反政府的な人間は太平洋沖の人工島「姨捨島」に追放されるという退廃的なアイデアが次々と出てくるのがたまらないが、本作の大きな特徴は、弾圧される側ではなく、弾圧する側を主人公にしている点だ。

 社会に適合しない人間を容赦なく断罪するまでなら、よくあるキャラクターだが、物語のラストで、自身の記憶の秘密に気づいた儀康が見せる決断には、かなりの凄みがある。

 この一作でも短編として完結しているが、この世界を舞台に、この男を主人公にした物語をもっと読んでみたいと思わせる作品だ。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)

ぬらりひょんって妖怪の総大将なのに能力は微妙じゃん?と思う人たちへ……

  • ★★★ Excellent!!!

 モンスターが跋扈し、人間がほとんどいない異世界に転移したナーリ・フォン。彼は転移の特典として、あるスキルが与えられていた。それは『合法侵入』! その効果は、他人の家に勝手に上がっても怪しまれないというもの……ぶっちゃけ微妙だね。

 だが、彼はこの微妙なスキルを駆使し、モンスターたちから迫害される妖怪たちを助けていくことで、人間でありながら妖怪の総大将「ぬらりひょん」となっていくのだ!

 本作の大きなチャームポイントは、妖怪たちが皆かわいいところ。他の現地人からは化け物扱いされる妖怪たちだが、なぜかナーリ視点ではみんなかわいく見える。もともとカワイイ系に分類されるすねこすりや雪女はもちろん、名前からしておぞましい蛇骨婆も、可愛らしいロリババアに見えるのだから、大変お得な体質だ。

 そして、もう一つのおすすめポイントが、問題解決を暴力に頼らないところ。ナーリは『合法侵入』という一見微妙な能力をフル活用し、時には仲間の助けも借りながら、異世界で立ちふさがる問題を平和的手段で解決していく。異世界での成り上がりという王道な物語でありながら、殺伐とさせることなく、あくまでハートフルな内容に仕上げいているのが見事な一作だ。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)