さて、今月は貴種流離譚をテーマに作品をご紹介させていただく——のですが。そもそも貴種流離譚ってなんぞ?
 流れを整理しつつ超ざっくり説きますと——
1.高貴な身分(貴種)の年齢若めなお子さん(以下、若様と記します)がその地位から追われたあげく、故郷すら離れてあてない旅に出なくちゃいけないことに(流離)!
2.大概の場合無力で、それを嘆くことしかできなかった若様ですが、艱難辛苦の旅の中で揉まれに揉まれ、あれこれ開眼して人間的に成長(いっしょに流離してきたお供がいる場合、彼らもここでかなりのレベルアップをします)!
3.若様の人間性は周りの人々を強く惹きつけ、支持を得ていくことに。
4.大きな助力を得た若様は故郷へ戻り、地位を取り戻す——ほとんどの場合はそれ以上の地位(王様/英雄)をゲット!!
 ——こんな感じの物語類型になりますよ。ちなみに『アーサー王伝説』や『スサノオ神話』は筆頭に挙げられる作品です。
 まさに神話の時代から綴られてきた王道で、だからこそ書き手の方の創意と工夫が光るジャンル。書き手のみなさまがどのように筆を振るって書き上げられているものか、どうぞ心ゆくまでお楽しみくださいませー。

ピックアップ

亡国の王子は為す術なく逃亡し、為す術を見出すがため己を尽くす!

  • ★★★ Excellent!!!

「神擁七国(しんようななこく)」の盟主国として西大陸に名を馳せる光国アルドラ。しかし東方より強襲を仕掛けてきたスヴァルド帝国に抗う術なく王城が陥落、最期を覚悟した王は王子アルクスに光国再興を託す。かくてただふたりの供を連れたアルクスは、父の願いと己が志を果たすべく、長き旅への一歩を踏み出したのであった。

 滅ぶ国から無力な王子が逃亡する負のクライマックスから始まる本作、まさに貴種流離譚の王道ど真ん中! しかも敵である帝国は銃器を使うのです。剣と魔法の世界観にとって銃は天敵ですよね。どうやって勝つのか? そもそも勝てるのか? 出だしからわくわくとハラハラが止まりません!

 そしてアルクスくんやお供のふたりの心情がまた魅力的のです。責務を果たさなければと各々が自分に言い聞かせ、あがいてもがいて。暗闇の中を手探りでじりじり進んでいくようなもどかしさ、チートものとは真逆のおもしろさを噛み締めさせてくれるのです。

 細やかな設定と濃やかな人物描写が映える本作、読み応えしかありませんよ!


(「これぞ王道! 貴種流離譚!」4選/文=高橋 剛)

仇であり恩人である女を愛した王子は懊悩するよりなくて——

  • ★★★ Excellent!!!

 襲来した鬼人の軍勢によって滅ぼされた融(ロン)という小国がある。その国の末の王子であった牒雅鳳(ディーヤーフォン)は辛くも命長らえ、13年を経て力を貯えてきた。そしてついに、奪われた故郷の奪還と復讐を成さんと踏み出したのだが——彼はその旅路で運命の女と出逢ってしまう。それが彼の命を長らえさせた鬼人の長の愛妾、麗花(リーファ)だと気づかぬままに。

 そうです。冒頭からこじれているのです。愛した女性がにっくき仇の妾で、生き恥を押しつけてきた張本人。でも彼の命を救って復讐の機会をくれた恩人でもあるわけですから。それに、なぜ麗花さんが牒雅鳳さんと「ただの女性」として再会したのかも謎ですよね。

 本作最大の魅力は各々の関係性を含めた“キャラクター像”の完成度。彼らがままならない設定をしかと負っているからこそ、復讐劇というメインストーリーもまたシンプルに成り下がることなくかき乱されて、先の見えないドラマとして浮き彫られるのです。

 彼らが辿る先に待つものは幸か不幸か? 見守って参りましょう。


(「これぞ王道! 貴種流離譚!」4選/文=高橋 剛)

元王太子の海賊はある日、娘のような姫君と出遭った。

  • ★★★ Excellent!!!

 海賊に捕らわれ、奴隷として売り飛ばされた娼館で男娼をさせられていた王太子は、ついに己が力で自由を勝ち取った。そしてアレックスの名を得て私掠船と娼館を切り盛りするようになった彼だが、ある日海岸に行き倒れが流れ着いたとの報告を受ける。ひとりは若い訳あり風の男ランス。そしてもうひとりは、死んだはずの娘と酷似した少女レジーナ。海賊に襲われたという彼らの話を発端に、アレックスは大渦へ引きずり込まれていく。

 構成がすばらしいですねぇ。主人公のアレックスさんも貴種流離を演じている身の上なのですが、レジーナさんという貴種流離の渦に翻弄される姫君が登場、彼の物語へ絡みついて。しかも超訳ありなランスさんが加わることで、国家間の問題まで織り込まれる。侵略戦争というわかりやすい舞台装置を用いることなく、キャラクターを窮地へ追い込んでいく設定とドラマの押し引きの妙、実にすばらしい!

 政治と思惑と心情が縒り合わされた、一筋縄ではいかない大ロマンです!


(「これぞ王道! 貴種流離譚!」4選/文=高橋 剛)

此は架空王朝の道行きを記した歴史の書にござります

  • ★★★ Excellent!!!

 皇室が栄えに栄え、皇族が増えすぎてしまった近未来の日本。しかし一方で皇位継承者に恵まれない時期が続いてもいて……それは聡明なる皇太子・允宮(みつのみや)の早すぎる死で、より深刻なものへと成り果せた。なれどその危機を脱し、人々が皇室の先を憂えることをやめた頃、思わぬ皇室スキャンダルが世を騒がせることとなる。

 古式ゆかしく雅な文章で綴られる本作の特徴は、キャラクターを包括した架空王朝そのものが主人公であることです。栄え過ぎて困る、でも天皇の後継者がいなくて困る、後継者の心配がなくなったのに一大事が起きて困る。登場するキャラクターが事件や舞台装置になって、翻弄される王朝の“次”を描いていく物語設計、目を惹かれずにいられません。大河ロマンは人を主人公に据えたものを指しますが、本作もまた新たな切り口から綴られた大河ロマンと言えましょう。

 日本という国の歴史と有り様を様式の美をもって表現した意欲作、再開を期待しつつご堪能ください。


(「これぞ王道! 貴種流離譚!」4選/文=高橋 剛)