一人は寂しい、せめてペットでもいれば……→でも一人暮らしじゃペットを飼うのは大変だし飼うわけにはいかない……→一人は寂しい。せめてペットでもいれば……→でも……という永久ループに入ってしまいました。人生のバグの一つですね。
そんなわけで今回はペット小説特集です。風変りなペットの話から、宇宙人視点から描くペットを飼う大変さの話、人類が眠りについた後で残されたペットたちの話、ペットと暮らすほのぼのとした日常の話……ペット小説といってもその切り口は千差万別。ペットを飼いたい人も、既にペットを飼っている人も是非是非お楽しみください。

ピックアップ

父には内緒の新しいペット

  • ★★★ Excellent!!!

五人家族で唯一の男性であるお父さんが主人公の本作品。一人だけ男性のせいか他の家族が仲良く話しているのに一人オンラインゲームをやっている姿が寂しい……。

そんなお父さんが絶賛ハブられ中の会話の中で最近しばしば出てくるのが『ポチ』という単語。お母さんの趣味で既に家には色々なペットがもういるが、お父さんはそんな名前のペットを飼った覚えはない。よくわからないまま娘たちの会話に耳を澄ますと、何やら『クトゥルフ』とか『サンチ』とか奇妙な単語も聞こえてきて……。

自宅の中から生臭い臭いがし始め、どこからかともなく水音が聞こえてくるようになり、家の中はどんどん不穏な雰囲気を醸し出していくのだが、そんな不穏さとは裏腹に娘たちの会話のテンションは全く変わらない。

明らかに異常なことが起きているのに、お父さんにちょっとだけ隠し事をしているという感じの妻と娘たちのリアクションが妙に生々しくて、この作品独自の奇妙な空気を作り出している。

ホラーというには明るすぎで、ギャグというにはあまりに淡々としている、奇妙な味と評するのがピッタリの一作である。


(「さまざまなペット」4選/文=柿崎 憲)

宇宙人視点から見る生き物を飼うことの大変さ。

  • ★★★ Excellent!!!

ペットを飼いたくなったけど、飼い方の本などを見てみるとやってはいけないこと、注意しなくてはならないことばかりで実際に買うのは大変そう……。そんな風に思ったことのある人も多いでしょう。

本作はそんな生き物を飼う難しさを宇宙人視点から描いたマニュアル。そして今回飼われる対象となるのは我々人類……!

普段は人類に最適化された社会で暮らしているため、なかなか気づきませんが、こうして宇宙人視点から見ると人間という生き物はとにかく面倒くさい!
酸素を与えないとすぐ死ぬし、ほんの数千ケルビン気温がズレるとすぐ死ぬし、重力も重すぎず軽すぎず調整しないといけない。毎日怠惰に寝てばかりだし、そのくせちゃんと寝床も用意しないとすぐに体を痛めてしまう……。

こういう宇宙人視点から人類を見ることで、当たり前に感じていた人間の生態の特異さがよくわかると同時に、ペットを飼うという行為が大変不自然なことであることに気づかされ、少し考えさせられるものがあります。

また、ときどき拉致されて飼われる人間視点の話も挿み込まれるのですが、飼われた反応が人間によって様々でその様子もまた面白く、人間を飼育する予定はなくても、ペットを飼っている・ペットを飼いたいという人には是非オススメしたい作品です。


(「さまざまなペット」4選/文=柿崎 憲)

どうぶつたちのすむところ

  • ★★★ Excellent!!!

人類が皆永い眠りについてから数年、今アパートの中で動いているのは眠ったままの人間の世話をするロボットたちと、かつて人間たちに飼われていたペットたちだけ。そんなある日アパートの中で、一人の人間が殺されてしまう。その人間のペットだった猫のオモチが嘆くので、隣人(?)の猫のミケはその犯人(?)を探し出すことに。

喋る動物たちが殺人事件の推理をする本作品。見つけた手掛かりをヒントに、猫や文鳥や蛇がああだこうだと言いあう姿が何とも可愛らしい。動物たちが喋るというファンタジー要素はあるけれど、トリックに超常的な要素はなく動機もしっかりしていて、読者に真相の推理が可能な推理小説として成立しているのも嬉しい。

ミステリーとしても良くできているのだが、やはり本作の何より良い部分は人間がいなくなった世界で動物たちだけが起きているという世界観である。飼い主が眠りっぱなしのアパートに動物たちが残り続ける理由も良いし、動物たちがおしゃべりするという可愛らしい設定を導入しているからこそ、ラスト二行の物悲しさが大変際立つ。


(「さまざまなペット」4選/文=柿崎 憲)

変わったカメレオンと平凡な家族が織りなす日々。

  • ★★★ Excellent!!!

本作に登場するカメレオンのカメオはとにかく変わった生き物である。見た目こそカメレオンだし、体色の変更もできるのだが、このカメオ、身の回りの物ではなく、好きな物の色に無意識に体の色を変えてしまう。

青空をみれば体は空の色に、桜の季節にはピンク色に、水まんじゅうを食べれば白と餡子のまだら模様に。変なのは体の色ばかりではなく、人間の言葉も理解しているようだし、水まんじゅうを食べるというところからもわかるように、普通のカメレオンが食べない物も好んで食べる。特に和菓子が大好き。

この風変りなペットのカメオと家族が過ごす日常をメインに描いた本作。
ときどき、外に出たカメオが小学生に狙われたり、食べ物に混ざって冷凍庫に入れられたりすることはあれど、特に大きな事件が起きる訳ではない。基本はほのぼのとした日常がメインなのだが、日常の中で食べ物や生活の変化に様々な反応を見せるカメオがいちいち可愛らしくて、これがなかなか読ませるのである。

分量も多くないので、その気になればすぐ読み終えられるのだが、できれば少しずつじっくり読んで、楽しんでほしい作品だ。


(「さまざまなペット」4選/文=柿崎 憲)