カクヨムさんで公式連載させていただいております『“すごい創作術”を駆使したら、新人賞は取れるのか!?』のほう、無事プロット編が終わってひと区切りがつきました。続く執筆編はもう少し先のスタートとなります。どうぞよろしくお願いいたします。
とはいえ進捗は相も変わらず芳しくない私ですので、それを突き抜けるブースターが欲しい余りついに手を出してしまいましたよスパイスへ。スパイスはねぇ! 沼ですからね! 香りを求めるのか味わいを求めるのか辛みを求めるのか、はたまた効能を求めるのか、まさに組み合わせは無限! やべぇこれ超楽しいぜぇ〜っ!!
でもですよ、買い集めたスパイスを日々混ぜ混ぜして仕上げたブツを見て、すんっとなりましたわ。香りと味わいと辛みが利いた効能ありそげな代物、これって結局カレー粉ですよねーって。……バターチキンカレー、本当においしゅうございます。
さて! そんなスパイシーな目で選ばせていただきました、みなさまにぜひとも出逢っていただきたい金色の4作、ご紹介いたしましょう!
青春時代を強さの追求に費やした吉戸正次(きっどせいじ)だが、大学を出る頃にはその熱も冷め、今はしがないアルバイターとして日々を過ごしている。が、ある朝、彼は知らされたのだ。自分が日本どころか地球ですらないコロニーの内に生きてきたことを。新しい仕事が、『越境連盟』なる秘密組織の戦士——物質改造者として戦うことだと。
その設定が世界観と共に示される冒頭部、いいですねぇ。濃密でありながらすっきりと無理のない流れで、正次さんの人生が日常から非日常へスライドしていく。それは自然に読者の目を物語へ引き込んでくれますし、先への期待感を高めてもくれるのですよ。
続くバトルももちろん期待を裏切りません。異能力を「なんとなく」で流してしまう作品は多いものですが、本作はきちんとシステムを示した上で、互いの力がぶつかり合って、勝ち負けを決める。この剣豪ものさながらの交錯感がたまらない風情と納得をもたらしてくれるのです。
骨太な戦闘アクションが読みたい! そんな方へ真っ先にお薦めします。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=高橋 剛)
貧乏子爵家の令嬢ユウヴィー(ヒロイン)と公爵家令嬢エリーレイド(悪役令嬢)。ふたりは乙女ゲーム世界へ転生した日本人である。そして彼女らは、このゲームにおいて恋愛が成就されることがイコール死であることを知っていた。……なんとしても相手を“殉愛”させて生き延びなければ! 表も裏も慎みすらない女の死合が今、幕を開けた。
この物語をひと言で表すなら「必死」でしょう。必死で相手を恋愛へ蹴落とし、必ず死なせるという。
キレっキレな設定はもちろん抜群ですが、ふたりのキャラがまたキレているわけですよ。悪に徹してユウヴィーさんに恋愛フラグを立てさせようとするエリーレイドさんと、そうはさせじと彼女の工作を蹴散らし、フラグをすり抜けるユウヴィーさん。目まぐるしく工作して交錯するふたりの力尽くな陥れ合い……いえ、譲り合い、息を飲む間もありません。
プロローグから全力全開なふたりきりのハイテンション生き残りバトル、どのようにハッピーエンドへ転じていくのでしょうか? いっしょに見守りましょう!
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=高橋 剛)
死んだ祖父が見える咲村蘭(さきむららん)。他の家族には見えないが、祖父は今も家にいて、彼女と普通に会話をする。そんな生活を続けたいと思って彼女は生きてきたのだが。大学を卒業して入った音楽サークルで、同じく霊が見えるという飯塚と出会った。それをきっかけに少しずつ、彼女の幽霊がいることが当たり前の日常が形を変じていく。
なにより目を惹かれたのはテーマへの切り込みかたでした。蘭さんは飯塚さんというある意味で霊に魅入られた人と出会うことで、揺るぎなかったはずのおじいさんとの関係性に違和感を抱くようになります。「おじいさんは絶対の味方」という一面しか見ていなかった彼女が、飯塚さんを通して自分を客観視するきっかけを得て、惑う。文量を抑えていながら、蘭さんという少しだけ他の人とちがう女性の内面とその変化の様を深く掘り込んで浮き彫っていく筆、本当にすばらしいものです。
幽霊は、いる。でも本当に、いる? タイトルがどのように回収されるものかが楽しみな人間ドラマです。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=高橋 剛)
進路希望に「無し」と書いて提出した水川結依(みずかわゆい)は、当然のごとく担任の風晴択己(かぜはるたくみ)——通称“かぜたく先生”に呼び出され、個人面談を強いられることとなった。言葉という刃を相打つ思春期少女vs教師! その顛末はいかに!?
おもしろいのは、この作品における子どもvs大人というひとつの王道の描き方……テーマをドラマへ転じる「展開」です。
結依さんは自分の意志を主張する中で次第に自分というものへ疑問を抱いていきます。先生は彼女の主張を発止と受け止めるかと思いきや、ふいにいなしたり逆に打ち込ませたりして導き、問うのです。それは自分が本当に納得した未来か?
ただ上から押しつけるのでなく、ただ下から突き上げるのでもなく、互いの言葉を受けて、返して、無駄話という支流なんかも経ながら太い本流を形作っていく。これはもう、「会話」の妙と言うよりなしですね。
けしてスカっとは終わらない、でも最高に爽やかな読後感をくれる会話劇。とにかく読んでください。そして浸ってください。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=高橋 剛)