死んだ祖父が見える彼女の当たり前な毎日、それはふと形を変えていく

 死んだ祖父が見える咲村蘭(さきむららん)。他の家族には見えないが、祖父は今も家にいて、彼女と普通に会話をする。そんな生活を続けたいと思って彼女は生きてきたのだが。大学を卒業して入った音楽サークルで、同じく霊が見えるという飯塚と出会った。それをきっかけに少しずつ、彼女の幽霊がいることが当たり前の日常が形を変じていく。

 なにより目を惹かれたのはテーマへの切り込みかたでした。蘭さんは飯塚さんというある意味で霊に魅入られた人と出会うことで、揺るぎなかったはずのおじいさんとの関係性に違和感を抱くようになります。「おじいさんは絶対の味方」という一面しか見ていなかった彼女が、飯塚さんを通して自分を客観視するきっかけを得て、惑う。文量を抑えていながら、蘭さんという少しだけ他の人とちがう女性の内面とその変化の様を深く掘り込んで浮き彫っていく筆、本当にすばらしいものです。

 幽霊は、いる。でも本当に、いる? タイトルがどのように回収されるものかが楽しみな人間ドラマです。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=高橋 剛)