幽霊ごっこ

だくさん

0. おじいちゃん

 おじいちゃんの幽霊は私が中学生になってから現れるようになった。

 おじいちゃんは私が小学6年生になったときに死んだ。それからしばらく経って、家のいたるところで何度もおじいちゃんと会った。そして、会うたびになんてことのない言葉を交わした。


「蘭ちゃん、トイレにスマホが置いてあったよ。蘭ちゃんのじゃないかい?」


「えっ、そうかも。ありがと、おじいちゃん」

 

 でも、私は決しておじいちゃんに触れないようにした。

 きっとおじいちゃんには触れない。おじいちゃんが幽霊だと言うことを証明してしまったら、もう二度と会えないような気がしたからだった。

 同じ理由で、仏壇に手を合わせたことも線香をあげたこともなかった。


 お母さんは「あんなに仲良かったんだから、お線香あげないと可哀想だよ」と言った。

 私以外の人におじいちゃんの幽霊は見えていなかった。私は、やっぱり幽霊なんだ、と確信した。

 でも、おじいちゃんはそれからも私のもとに現れた。

 

 おじいちゃんは私が生まれた頃から同居していて、いつも無条件で私の味方をしてくれた。

 私も同じように、おじいちゃんのことが無条件で大好きだった。

 でも、一個だけ好きじゃないところがあった。それは、私に「蘭」という名前を付けたことだった。


 蘭という名前はおじいちゃんが考え、それを気に入った両親が決めた名前だった。

 私も蘭という名前は素敵だと思う。でも、私は蘭という名前ほど綺麗じゃないし、特別優しいわけでも頭が良いわけでもない。

 小学校の友達は、みんな私のことを「さきちゃん」と呼んだ。名字の咲村から取ったあだ名だった。

 私はそのことに安心していたし、蘭という名前をもっとふさわしい人に譲りたい、とも思っていた。


 ところが中学校に入学すると、私とは別の小学校から入学してきた人は私のことを「蘭ちゃん」と呼んだ。

 正直嫌でしょうがなかったけど、出会って数日の人たちにはっきり否定することはできなかった。

 私はずっとさきちゃんのままでいたい。

 そんな私を、おじいちゃんは今でも見守ってくれている。

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