私的には1年の内でもっとも過酷な10月ですが、みなさまは心やすくお過ごしいただけておりますでしょうか? 気がつけばもう下旬。これまでの20日余りをどう過ごしてきたものか思い出せないのは忙しすぎたせい……というより、年波のせい?
 疑うべくもない事実なのでこれまた忘れてしまいまして、今月は「主従関係」をテーマとした4作品を選ばせていただきましたよー!
 主従は言うまでもなく上下の関係。両者の間を行き来する心情が作中でどのようなスパイスとして利かされるかが見所となりますし、あるいは恋愛やバディものに転じて横の関係を成し、別のドラマが成立する妙を見せてくれるもの。最初の形が定まっていればこそ、その先の必然性/意外性が楽しめる題材です。どうぞこの「関係性」の行方にご注目いただき、作品本編をお読みくださいね。
 あと、公式連載させていただいております『“すごい創作術”を駆使したら、新人賞は取れるのか!?』のほうも何卒よろしくお願いいたしまする……!

ピックアップ

恋心と愛情が丁々発止! 帝と少年を装う少女の三番勝負!

  • ★★★ Excellent!!!

 仏門から還俗し、24歳で帝位を継ぐこととなった花琉帝(かりゅうてい)。その傍らには常に、彼が封じられていた寺より連れ来た少年、斎(いつき)が在る。武官と蔵人を兼任し、帝に寵愛される斎は「枸橘の君」と呼ばれるひとかどの人物となっていたが……実は女子であることはすでに公然の秘密であったのだ。

 女子でありながら男子として帝を守ろうと誓った斎さんですが、帝の最重要課題は子を成すこと。だからこそ揺れるのですよ。自分の中の女心と、貴族の娘なんかじゃない身分の差の狭間で。

 ちなみに彼女は一度、帝の求愛を突っぱねています。そして今は帝に世継ぎを成すため妻を娶るよう進言しなければならない立場でもあって。彼女を追い立てていく著者さんの筆、憎らしいほどすばらしいんですよ!

 そして! その果てに勃発する、誰より頑固な斎さんと誰より直向きな帝による「宮中妻問い三番勝負」! それはもうドラマチックなのです。

 主従の絆がどのように恋のさだめと結び直されるか、ぜひあなたの目でご確認ください。


(「縦から始まる主従の関係」4選/文=高橋 剛)

交錯する心情と思惑! 怪異の奥に潜む謎、その真相とは……!?

  • ★★★ Excellent!!!

 若き国王より信を置かれる宰相ジェラルドは現在城を離れ、行方不明となった家族を探している。国王その人と、同僚であり親友である近衛隊長チューザレの気遣いをありがたく思いながらも己の目的へ向けて進み続ける彼。その周囲で起こる怪異や思わせぶりな事件には、果たしてどのような意味があるものか?

 ジェラルドさんと国王と親友。縦と横の関係軸がしっかり結びつけられていて、作品世界がくっきりと浮き彫られているのが第一の魅力です。ここが明確化できていることで揺らせるのですよ、固く結ばれているはずの関係を。

 そして謎の置き方も憎いのですよ。最初はただの怪異であったものが、じわっとジェラルドさんへ迫り来て、キャラ同士の関係性にまで侵食する。キャラの造形力はもちろんなのですが、この構成力は本当にすばらしいとしか言い様がありません!

 蕾のように収められていた数々の謎がほころび、思わぬ花を咲かせるミステリーの妙、どうぞご堪能あれ。


(「縦から始まる主従の関係」4選/文=高橋 剛)

非共感と打算が重なって情になる。人ならぬものが人となっていく物語

  • ★★★ Excellent!!!

 自分を曲げられない頑なさが災いし、二度も里親から見放された孤児の朔(さく)。施設でその日をやり過ごすように生きる中、ひとりの男性が里親になりたいと現れた。彼は変わり者の自分から見ても変わった人物だったが、朔は彼が約束してくれた金銭的援助ほしさにうなずき、彼の家へ行く。そして頼まれるのだ。庭に建つ大きな蔵の整理を。

 朔くんという主人公は、人の情に共感できない人物です。そして里親となる「泉さま」もまた、人としては大分欠けた人物。そんなふたりが、形ばかりではありますが子と親を演じることで、人でないもの同士の打算的な関係から、人同士の情による関係を築いていくのです。

 なんでもない生活の中、互いにこれまでの半生で得られなかったものを得ていく大きなとまどいと淡い喜びは、たまらない切なさとなって読む者の胸を締めつける。

 親と子が互いを育てるように、人もまた互いを育てるもの。そんな感慨の風情と余韻とをいっぱいに味わわせてくれるヒューマンドラマです。


(「縦から始まる主従の関係」4選/文=高橋 剛)

その山の深みに封じられた伝承が今、垣間見える

  • ★★★ Excellent!!!

 若君・須貝忠孝(すがいただたか)の初陣を飾らせようとの目論みは、仇敵の猛攻によりあっさりと破られた。敗走し、援軍を待つ身となった忠孝は下人の籐佐(とうざ)と共に山中へ潜み、不可思議な白鷺と出遭う。そして後の世。茶の品質改良へ取り組む羽代藩の当主・朝永弘紀(ともながこうき)は新たな茶園を拓く候補地、須貝の庄の視察を決めた。そうして踏み入った山中にて、弘紀は護衛を務める秋生修之輔(あきうしゅうのすけ)とふたり、かつてこの地にあった須貝なる豪族が残した伝承を見る。

 この作品の魅力はなんといっても“におい”――時代を異にした同じ土地で語られるふたつの物語が重なり、儚くも鮮やかな真実を浮き彫ることにあります。この著者さんの硬質にして艶やかな筆が描く諸行無常の儚さ、なんともいえない余韻を感じさせてくださるのですよ。

 そして各話で語られる二組の主従の有り様もまた、各時代性を鮮やかに映したものとなっています。彼らの関係性が絡み、色濃い叙情を匂い立たせる物語、おすすめです。


(「縦から始まる主従の関係」4選/文=高橋 剛)