その山の深みに封じられた伝承が今、垣間見える

 若君・須貝忠孝(すがいただたか)の初陣を飾らせようとの目論みは、仇敵の猛攻によりあっさりと破られた。敗走し、援軍を待つ身となった忠孝は下人の籐佐(とうざ)と共に山中へ潜み、不可思議な白鷺と出遭う。そして後の世。茶の品質改良へ取り組む羽代藩の当主・朝永弘紀(ともながこうき)は新たな茶園を拓く候補地、須貝の庄の視察を決めた。そうして踏み入った山中にて、弘紀は護衛を務める秋生修之輔(あきうしゅうのすけ)とふたり、かつてこの地にあった須貝なる豪族が残した伝承を見る。

 この作品の魅力はなんといっても“におい”――時代を異にした同じ土地で語られるふたつの物語が重なり、儚くも鮮やかな真実を浮き彫ることにあります。この著者さんの硬質にして艶やかな筆が描く諸行無常の儚さ、なんともいえない余韻を感じさせてくださるのですよ。

 そして各話で語られる二組の主従の有り様もまた、各時代性を鮮やかに映したものとなっています。彼らの関係性が絡み、色濃い叙情を匂い立たせる物語、おすすめです。


(「縦から始まる主従の関係」4選/文=高橋 剛)