クーラーが壊れ、熱帯夜を過ごして過ごして過ごして、ようやく新しいクーラーが来たと思いきや夜が涼しくなる……人生ってやつを噛み締めてしまったわたくしですが。
 実は最近、YouTubeデビューしました。もちろん趣味じゃありませんよ? お仕事でですよ!
 タイトルは『すごい創作術ラジオ』。創作術指南書100冊を読んで、その中から最高の創作術を抽出しよう! という企画の一環で、担当編集の岡田勘一くん(『このライトノベルがすごい!』、『異世界居酒屋「のぶ」』等々を担当する手練れな編集者さんです)といっしょにしゃべっていたりするのです。(KADOKAWAさんで書籍化も検討中です!)
 すごい人たちがご指南くださるすごい創作術をゆる〜くご紹介すると共に、新人賞へ関わる者からのお話などの裏話もさせていただいておりますので、書き手の方も読み手の方もチラ見していただけましたら。……まあ、しゅっとしたメガネの脇にいる太ましメガネおじさんなわたくしの無様には目をつぶっていただくといたしましてね。
 動画はプロフィール下のURLから! よろしくお願いいたしますー。

ピックアップ

一方的に始まる究極の二択と恋!

  • ★★★ Excellent!!!

 地元の高校に通う鬼塚香澄は月鳴神社でのボランティア活動中、まるで面識のない隣のクラスの男子、鷺山悠人と共に視てしまう。ほどなくここで開催される祭で、それぞれが死ぬ未来を。伝承によれば、示された未来の一方を選べばもう一方は回避できる。そして悠人はあっさり、自分が死ぬことを選んだ。理由は「香澄さんのことが好きだからです」。

 と、衝撃告白をかました悠人くん、言葉の通りひたむきに自分の死ぬ未来へ向かいます。なぜ? どうして? そもそも悠人くんって何者? 謎が積み重ねられ、さらにその謎がまた謎を呼ぶ展開、香澄さんは当然翻弄されるのです。

 ともすれば冗長になりがちな物語構成ですが、ふたりの未来が確定するまでのタイムリミットが置かれていることで、たまらない緊迫感が引き絞られているのですよ。さらには「絶対選ばなければならない」強制が、香澄さんと悠人くんに互いの心へ踏み込ませる原動力になっているのもすばらしい!

 最高のカタルシスが待つ謎謎謎な16日間、一度開けば一気に読み切ってしまうこと間違いなしです!


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=高橋 剛)

一通の手紙が示す思いがけない謎! ふたりの高校生が真実を追う!

  • ★★★ Excellent!!!

 自他ともに認めるミステリー好きな高校生、東野健介は、唯一の友人である相原浩の机に入っていたラブレター、その差出人への断りの返事を代行することを引き受けた。が、その実手紙はラブレターならず、健介はふとしたことから知り合った本好きな下級生女子、梶本——自称レモン——と共に真相を追うこととなるのだった。

 ラブレターがラブレターじゃないならなんなのか? このシンプルなお話の裏側にある複雑な真相を、健介くんとレモンさんは紐解いていきます。その、読者を飽きさせない多彩なアプローチも魅力なのですが……すべてに推理や行動理由がしっかり積まれていているからこその「納得」があるのですね。だからこそ、読者は安心して次の謎へ向かえるわけです。

 探偵ふたりの関係性も良き! 斬り込み役のレモンさんと、思索型の健介くん。互いがきちんと補い合って、コミカルな会話劇から緊張感ある推理まで、メリハリの利いた掛け合いを見せてくれて。まさに名コンビですね。

 芯の太い推理とキャラが両立する日常の謎、ずいとお勧めします。


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=高橋 剛)

ラーメンを! 私のためにラーメンを作るのです!

  • ★★★ Excellent!!!

 働いていた料理店が潰れ、困り果てていた“俺”は、人生で一度きり、特別な「スキル」を授かれるという儀式を受けるため教会を訪れる。どん底の人生を逆転できる強大なスキルが得られたら……その願いは、儀式の場へ降臨した“ラーメンの天使”に打ち砕かれた! 天使に強いられた彼は、ラーメンなる見知らぬ料理作りにかからせられる……。

 本作でまず注目したいものは発想。異世界×ラーメン、ノリだけでなくお話へ仕上げるために向き合うには難しいテーマですよね。なにせ中世欧州風異世界には存在しないものですから。

 で、それを実現するためのマクガフィンが天使さんですよ。理不尽に押し出しの強い彼女が物語を駆動させ、本来「パスタの達人」というスキルを得るはずだった“俺”さんの人生をねじ曲げてまでラーメンを顕現させる。単純にキャラが立っているというだけでなく、作品そのものの形を定めるギミックとして機能していることに、思わず唸らされましたよ。

 技は力の中にあり。その意味を思いきり味わえる異世界コメディーです。


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=高橋 剛)

理不尽しかない37日間のリアル!

  • ★★★ Excellent!!!

 転職を決め、無事内定を得たSES(システムエンジニアリングサービス)の“ザード@”は現在勤める会社を退職する手続きにかかった。が、そこから思わぬ攻防が開始されることとなる。理不尽と言うよりない、37日間の不毛な闘いが——

 現代日本でもめずらしいものではなくなった転職ですが、過程にとんでもない人が関わると悲劇が生まれるもの。本作におけるその人は、著者さんの仕事に直接関わる営業さんなのですが、社会人としての未熟さや独善性がどれほど恐ろしいものと成り果せるか……それと闘わなければならなかった著者さんがどれほど苦悩したものか。37日という時間の順を追って書き上げられた“事実”、他人でしかない読者の背筋をも冷たく震わせる恐さを見せるのです。

 社会的動物である人間は人との関わりがなければ生きてはいけません。しかしながら、関わる人によって社会はこうまで歪められてしまうものなのですよね。

 もしかすれば明日のあなたが味わうこととなるかもしれないひとつのリアル、心を据えてご一読ください。


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=高橋 剛)