50余年にわたり推理・探偵小説を精力的に執筆し続け、また怪奇・ホラー小説にも親和性が高い横溝正史氏の名を冠した「横溝正史ミステリ&ホラー大賞」。ともに四半世紀以上の歴史を持つ「横溝正史ミステリ大賞」と「日本ホラー小説大賞」を2019年に統合し、ミステリとホラーの2大ジャンルを対象とした横溝正史ミステリ&ホラー大賞として生まれ変わりました。

第44回横溝正史ミステリ&ホラー大賞では、最終候補に選ばれた4作品の中から、読者投票によって「カクヨム賞」が決定します。作品は全文、公式連載アカウント「KADOKAWA文芸」にて期間限定で公開中です。今回はそんな最終候補の4作品にお寄せいただいたレビューを厳選してご紹介します。読者投票は2023年4月11日(木)13:00締切となりますので、ぜひ全作品をお読みいただき、投票フォームより投票してください。皆さまからの清き1票をお待ちしております。

ピックアップ

多くの人々の自責の念やそれぞれの想い

  • ★★★ Excellent!!!

過去にあった事件をきっかけに様々な人々の想いが複雑に絡み合い、
そして皆がそれぞれ苦しんでいる。

読むに連れて徐々に真相が明かされていきますが、
それでもそのとき関わった人たちの苦しい胸の内が刺さります。

事件はなにがきっかけで起こったのか、
それによってさらに引き起こされる世の中の風評、
ひとつの事件から多くの人間が巻き込まれていき、なにが正しいのか分からなくなる、

そんな人間の葛藤がとても丁寧に書かれています。

重く辛い多くの人々の想い。
読んでいて苦しくもなり、心に響く、考えさせられるお話でした。
タイトルがとても印象に残ります。

すべては愛する者のために——

  • ★★★ Excellent!!!

主人公の画家、漆野和生は美大の研究室にいたころに、絵のモデルとして現れた小夜子に一目惚れをした。

小夜子をモデルにして絵を描くうちに、距離は縮まって行き、2人は夫婦になる。幸せな日々はいつまでも続くと思っていたが、妻はある出来事をきっかけに変わってしまう——。


『死肉食む妻』というタイトルでなんとなく察しがつくと思うのですが、とても猟奇的な物語です。ただ、それだけではありません。

おそろしいことが起こっているはずなのに、艶かしい表現なので、美しく感じるんです。

作中にピアノを弾く場面があるのですが、おそろしいことが起こっている間も、ピアノが奏でるクラシックの音楽が聞こえてくるようでした。

この物語は主人公と、被害者の視点に分かれています。被害者側を読んでいる間は恐怖が伝わってきて、手に汗が滲みました。どこにも逃げ場がない密室……気が狂った方が楽かもしれませんね。

残酷描写、暴力描写が苦手な方は要注意ですが、不思議と重苦しさは感じないので、ぜひ読んでみていただきたいです。とにかく美しい。

目を覆いたくなるような猟奇的な内容ですが、それよりも、妻への強い愛を感じる物語でした。

私はこれが好き

  • ★★★ Excellent!!!

その場の空気や塵を感じる、味わい深い文章。かっちり&難しめ語彙な作品。
ウェブ読者には辛いかな、と思う重みがありますが、作者様がその点を理解しているとわかる改行スペースのおかげで、読みやすいです。
重厚で密度が高いのが素晴らしい点なのですが、ウェブだと不利になってしまう。
そこでプラットフォームに合わせて工夫する柔軟性や読み手への思いやりを感じて、好きだなと思いました。

知識量、情報量が心地いい。
知らなかったことが知れる。知っている知識が出てきてにっこりする。そんな知的な楽しさが味わえる。
時代感は古めですが扱っているネタが「あ、去年から今年にかけて話題になってたなぁ」というものもあり、話題に乗っかるエンタメ性みたいなのも感じました。

個性的な登場人物。
マダミスを見ているような気分になる登場人物たち(マダミス好きなもので。すみません)

得体の知れないゾッとする怖さがあり、ドキリとさせられ。一方で地に足がついている感覚が強く、論理的。
事件、謎提示。探偵、アリバイ、謎解きが丁寧に描かれている。閃く瞬間があり、驚きがある。

かつ、人間の情念とか、色気とかもあり。
盛り上がりどころの雰囲気も抜群で、文字が気持ちよく、感情が揺さぶられて、まるで映画を観ているような気分で惹き込まれました。
お前が犯人だ、と言うシーンなんて美しいですよね。痺れますよね。
じっくり積み上げてきて、期待させて、さあどうぞ! ここが落とし所! 
そんなカタルシスを魅せてくれた気がします。

私は推理小説好きを名乗るほど多く摂取していませんが、推理小説を読む方はこんな楽しさの中毒みたいになって、もっとくれ、もっと読みたい! ってなるのではないかなと思います。
そして、こんな楽しさを提供できる作品を作れる人は少なくて、とても貴重なのだの思います。

論文のようであり、映画のようであり、クイズのようでもあり。
ラストで「おっと待ちな!」ってもう1インパクトくれるじゃないですか。びびったわ!

大好きな作品だなと思いました。
大好きです。

人物や描写全てに必要性と説得力を感じる、知識に裏付けられた民俗ホラミス

  • ★★★ Excellent!!!

冒頭から引き込まれました。目の前に実際に広がるような鮮やかな情景描写、行ってはならない領域に匂いと共に足を踏み入れていく感覚。これからの展開を示唆する、物語の魅力が詰まった導入だと感じました。

理由、理屈、理性。そういったものが物語を通して印象的でした。
言い伝えや霊などは人の心が作ったものであり、科学的に解き明かすことができるでしょう。しかし現代であっても、人は自分の心から「こじつけ」を生み出し続けているのではないでしょうか。頭ではわかっているけど理由をつけて自分の気持ちを優先させる、偶然が続くとそこに意味を感じる、辻褄を合わせたがる等も、そういった類いなのではないでしょうか。
また、身の回りの不可解なことを現実的・理性的なもので解釈しようとする様に、ホラーだからこそ成り立つ逆転の現実逃避を感じました。それも「こじつけ」なのではないでしょうか。

縁というものも印象的でした。
登場人物の出会いや、伏線が繋がっていく様には縁を感じずにはいられませんでした。そのおかげもあって、登場人物たちはトントンと謎に迫っていくのですが、そのミステリー的な流れが、悪いものに意図的に誘い込まれているホラー的な流れにも感じてゾッとしました。
親子という血縁も物語に深く関わっており、様々な形を目の当たりにしました。

知識に裏付けられた数々の描写には好奇心を掻き立てられました。民俗学や科学的根拠に基づいた様々なことにオカルト要素がピタリとハマるように絡み、説得力がありました。
他にも葛藤の中で藻掻く人間や食べ物の描写など、たくさんの魅力を感じました。

登場人物や描かれているもの全てに無駄がないと感じました。
まさにホラーミステリー!