色々生活が忙しくなると、「好きな作家の新作だけ読めばいいや……」とか「もう好きな作品の更新だけチェックすればいいや……」みたいになって新作にあまり触れなくなることってありませんか? 自分はめっちゃあります!
しかし、しかし、だがしかし、どんな作品だって最初は知らない作品だったはず。昨日まで知らなかった作品が、未来の自分のお気に入りになるというのも良くある話で。というわけで、皆さまのお気に入りが一作でも増えればと思いつつ、今月も新作特集行ってみましょう!!
仲間と共に冒険者となったレントが持つユニークギフト《魔蔵庫》。それは豊富な魔力を他人に貸すことができるというもの。便利な力ではあるのだが、直接的な活躍はできないため仲間とのレベル差は開いていくばかり。そしてある日レントはとうとうパーティーから追放されてしまう。これまでの貢献を無視し、さらに強引に土下座までさせようとする仲間たちに激怒したレント。すると彼の持つギフトが真の姿を見せる。それは今までレントから魔力を借りた者たちの破滅を意味していた……
本作はいわゆる追放もの。この手の作品では縁の下の力持ちである主人公を失ったことで、元のパーティーが瓦解していくのが定番だが本作はもっと厳しい。
キレたレントは彼らの魔力を強制的に徴収していく。それも〝リボ払い〟形式で……!
日々大量の魔力を自動的に徴収し、さらに巧みに運用してパワーアップしていくレント。それに対して毎日魔力を吸い取られ、まともに冒険者としての活動ができない仲間たち……この残酷なまでの落差が本作の読みどころ。
非常にざまぁ感が溢れる一作だが、それより何より恐ろしいのはいつまで経っても借りた魔力が返しきれない点である。借金の利子を甘く見てはいけない。そしてリボ払いは計画的に使わないと大変なことになる。そんな人生に必要なことを教えてくれる一作だ。
(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)
小学生のひかりは、転校先で「こわい話、すき?」というクラスの人気者の問いに「きらい」と答えたばっかりにいじめられるように。家では情緒不安定な母親に怒鳴られてばかりで、彼女の安らぎは自室の押し入れの中だけ。そこには彼女にしか存在を感じ取れない「ナイナイ」がいた……。
冒頭から学校でのいじめ、小学生視点ながらも巧みな文章の効果もあって非常に陰鬱な気持ちにさせられるのだが、このいじめはある出来事をきっかけにいじめはピタリと収まる。さらにお母さんの性格も落ち着き始め、ひかりの日常に平穏が戻ってくる。これでめでたしめでたし……と終わればいいのだが、本作はこの変化の様子が非常に薄気味悪いのである。
そして本作は視点人物が次々変わっていくのが大きな特徴。ひかりとナイナイの話がメインで進むのかと思いきや、物語は盲目の霊能力者とそのボディガードの青年にスポットが当たり、さらに彼らに相談を持ち込んだ女性の話へと移り変わる。一見接点のなさそうなこれらのエピソードがやがて一つの線となって繋がっていく様子はミステリー要素もあって面白い。
扱っている題材が題材だけに万人にオススメはしないけれど、こわい話が大すきな方々には是非読んでもらいたい作品だ。
(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)
ある日、沼のそばで落雷を受けて男が死ぬ。そして偶然にも、この落雷によって沼の泥に化学反応が起こり、死んだ男と全く同じ記憶を持った同質形状の生成物が生み出されてしまう。果たしてこの生まれたばかりの生き物は元の男と同一人物と言えるだろうか……というのが、有名な思考実験の一つスワンプマン問題。考えれば考えるほど面倒になるこの問題だが、本作はこのスワンプマンを大胆にも古典落語の粗忽長屋と組み合わせる!
ある研究所で一人の男のスワンプマンが誕生! ついでにそいつの上司である主幹のスワンプマンも誕生! さらにその上司のオリジナルがしょうもない事故で死ぬ!
その結果、本作では大変奇妙なシチュエーションの葬式が描かれる。自分の葬儀に参加する主幹(スワンプマン)、骨壺を抱えてしんみりしつつも生きている方の主幹としょうもない口げんかをする妻、人手不足の僧侶の代理でやってきたロボット、父親のデジタルクローンを作って持ち込む息子たち……かくして人が死んでいるのに大変にぎやかなコメディが展開される。
個性的な人物が次々登場するせいで、原作以上に馬鹿馬鹿しい内容になっており、中でもやたら謎かけをしたがるロボットのペッピー君が印象に残る一作。
(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)
貴族の令嬢に生まれたはずなのに、お人好しの両親のせいで若くして多額の借金を背負うことになったマリアンネ。しかし彼女はくじけない。普段は王子の下で侍女として働きながらも、両親から受け継いだ類まれな身体能力、そして武闘家令嬢の異名を持った腕前を活かして便利屋として今日も奔走するのであった。
本作はとにかくパワフルな主人公のマリアンネがいい。愚痴はついても弱音は吐かず、お金をチラつかされれば、幽霊屋敷の探索だろうが、書類整理だろうが、王子の偽婚約者役だろうが、どんな面倒な依頼もきっちりこなしていく。
何故か女言葉で話す残念王子や顔は怖いが面倒見の良い上司など、妙な人々に囲まれながらテンポよく物語は進行していきサクサク読めるのも嬉しい。
毎度毎度話の終りに残りの借金額が出て来るのが楽しく、今のところ全く返せる見込みはないのだが大丈夫だろうか……ってか物語スタート時より借金増えてるな……。
(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)