近頃小説投稿サイトはたくさんありますが、どのサイトにもそれぞれの個性や特徴があって、そのサイトなりの色というものが出て来ると思います。当然カクヨムにもカクヨムならではの個性があるわけで、今回自分が選んだ新作は僕が考えるいかにもカクヨムらしい作品が集まっております。どれも個性的で癖が強くカクヨムがこんな作品ばかりというわけではないのですが、こういう変わり種が読めるのがカクヨムらしさなのではないかと個人的には思っているのですが、皆様的にはいかがでしょうか?

ピックアップ

タイトル、キャラクター、設定、文章……そのどれもがぶっ飛んでる!

  • ★★★ Excellent!!!

人間は素手で羆に勝てるのか?――これは有史以来人類が抱え続けてきたテーマであり、本作もそうした問いかけに答えようとした作品の一つである。

一人の若き空手家が、とある村に出没する羆の討伐をメスガキに依頼されるという本筋自体はいたって普通の内容なのだが、この本筋を普通と言っちゃうぐらいそれ以外の部分がどうかしているのだ。

最初から人が盛大に死ぬし、なぜかIQが強さの基準みたいになってるし、羆は空手の技を使いこなすしで、一話目からとことんテンションが高い。しかもこの勢いが最後まで続くから恐ろしい。

羆だけじゃなくて「おとうさーん!!」と鳴き喚くチュパカブラも普通に出て来るし、異世界転生はするし、意味もなく猫ちゃんも出て来る。

そんなわけのわからない展開が続いたと思ったら、途中で作者が細かなミスをお詫びするだけの一話を挟みつつも「しかし私にもプライドがあり、こんな作品のために頭を下げたくはないのです。」とか言っちゃうし、もう本当にやりたい放題で予測不能な作品なのだ。

こんな一見メチャクチャな内容なのだが、終わってみるとストーリーはそれらしくいい話風にまとまっていて、笑っていいやら怒っていいやら。

分量も決して多くなく文章の勢いで一気に読まされてしまうし、ハマる人には間違いなくハマる一作。さてこんなものを読まされた我々はこの後どうすればいいのか?

決まっている。作者の別作品を読むのだ。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)

怠惰を求めて勤勉に行き着く

  • ★★★ Excellent!!!

何が何でも働きたくない……そんな誰もが共感できる思いを胸に抱くのが本作の主人公だが、この男はちょっと気合の入り方が違う。

最初は叔父から相続したマンションの経営に運よく成功して、無事に会社を辞めて悠々自適な生活を送っていたのですが、そんな彼を待ち受けていたのが超々高齢化社会! 科学の進歩で日本人の平均年齢は98歳に! おかげで年金は破綻し老人だって死ぬまで働かなければいけない時代だが、頼みの綱のマンションは老朽化で資産価値はほぼゼロ。半世紀働いていなかった男もついに働くしか道はないのか……! と思いきやここからがすごい、自給自足のスローライフ、コールドスリープ、深宇宙への植民事業……とあらゆる手段を使って労働の義務から逃れていく! この労働を回避するための手段がどんどんインフレしていくのが非常に痛快。

……そこまでするぐらいなら素直に働いた方がいいんじゃないのかと思わなくもないのだが、そう感じてしまうのは働かないことに向いてないということなのだろう。働かずに生きるためには本来これぐらいの気合と覚悟が求められるのだ……多分。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)

アシモフへのオマージュに満ちた人とロボットの物語

  • ★★★ Excellent!!!

SFの巨匠、アイザック・アシモフが生み出した、ロボット三原則。
「ロボットは人間に危害を加えてはならない」「ロボットは人間の命令に服従しなくてはならない」「ロボットは自分の身を守らなくてはならない」

安全性を考えられたシンプルでわかりやすい設定であると同時に、この原則が適用できない様々な状況を作り出すことでアシモフは数々のSFミステリを世に残してきた。
本作もそんなアシモフの設定を活用した短編集である。ただ設定を借りてきただけではなく、それに加えて作品全体に「死と尊厳」という一貫したテーマを用意して独自性を出すことにも成功している。

主人が自殺したいと考えたときロボットはそれを手助けするのか? 三原則が後天的に付与された場合、そのロボットはこれまでのロボットと同じと言えるのか? などロボット三原則の根幹にまつわる問いをいくつも用意しながら、その解答に至る過程を通じて人間とロボットの独特なつながりを描く手腕が実に見事。ロボット三原則というロジカルな設定を使いつつもその仕上がりは非常に叙情的だ。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)

それぞれの事情を抱え人々は今日もその小屋を訪れる。

  • ★★★ Excellent!!!

森の奥深くに建てられた一件の小屋。本作はそこで暮らす一人の男と、そこへ迷い込んでしまった客人との交流を描く短編ホラー。

どんな客が来ても動じずに淡々と紅茶を淹れる主人と、いかにもわけありな来客との会話が、独特の雰囲気もあって読ませるのだが、本作はそれだけではなく物語の構成にも一工夫がある。

本作で小屋を次々訪れる客人は実は他の客人たちと関係があり、それぞれの会話を通して最初はよくわからなかった会話の意味や客人が抱えている秘密の正体が徐々に明かされていき、最後に毎回現れる顔馴染みの男が全ての真実を教えてくれるというのが面白い。真実を知った後に改めて客人たちの発言を読み直すと当初の印象とは全く別の物語が浮かび上がってくるのが非常に印象的だ。

一話一話も短くまとまっており、ちょっとした隙間時間に読んでみるとそのまま心にするりと入り込んでくるような作品だ。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)