昼夜の寒暖差が大きくなってきて、なにやら調子悪いわたくしですが(年波!)、みなさま健やかにお過ごしいただけておりますでしょうか?
毎度毎度であれですが、今月の新作紹介も「みなさまにぜひとも出逢っていただきたい」4作品を選び抜かせていただきましたよー。おもしろいもので、毎回同じテーマで選ばせていただいているはずが傾向は異なってくるものです。そして今回は「染み入る」系でまとまった感がありまして、しみじみとレビューを書かせていただきました。
そんなわけですのでみなさまもひとつ、しみじみとお楽しみくださいましたら幸いです。

ピックアップ

トーストサンドを携えて、いざサード・ステージへ!

  • ★★★ Excellent!!!

30年務めた会社を早期退職した佐伯健一郎。セカンド・ライフならぬサード・ステージに挑むと決めた彼は、焼いた食パンに具材を挟んだトーストサンドを提供するフードワゴンを駆り、全国各地へ向かうのだった。

なにより素敵なのは、新たな戦場へ打って出る「わくわく感」が満ち満ちていることです。早期退職ってそれこそ一大事じゃないですか。しかも健一郎さんの場合、この先にあるはずの10年を代償として得た挑戦権です。この、代償が大きいからこそ輝くわくわく感があればこそ、大きく跳ねることなく綴られていく健一郎さんの小さな成功や失敗、感慨は、深みのある人間ドラマへと昇華されるのです。

そして作品中で健一郎さんがこだわったあるものが伏線になっていることにも目を惹かれましたねぇ。さまざまな食品を扱う料理屋ものではなく、トーストサンドという1品をテーマにしていればこそなのですが、構成としてもしかけとしてもお見事。
社会人の方へ特におすすめしたい挑戦の物語です。


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=髙橋 剛)

不眠症の少年は過眠症の少女を救えるか!?

  • ★★★ Excellent!!!

高校2年生の夢寺は小学生のころから7年間、まったく睡眠をとらずに生きてきた不眠症。そんな彼がある日出会ったのは、小学生のころから16時間以上眠らなければならない過眠症の少女、姫島。そんな彼女と友だちになった夢寺は、有り余る自分の時間のすべてを彼女のために使ってやろうと決める。

注目ポイントは不眠と過眠――この上なくシンプルながら、これ以上ない対比で際立つ主人公の夢寺くんとヒロインの姫島さんの個性です!
しかもですよ、そこから始まる物語は、不器用で無様だからこそ限りなく純粋なボーイ・ミーツ・ガール! 男子が女子のために全力でがんばるって、かっこ悪いほどかっこいいじゃないですか。それを(ポーズは別として)斜に構えることなく突き抜く夢寺くんの姿、魅せられずにいられません。

かっこいい主人公はそれだけで物語を輝かせて、読者にハッピーエンドを祈らせるものです。じゃあ夢寺くんのエンディングはハッピー!?

めずらしく引きを作りつつ、強く推させていただきますー。


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=髙橋 剛)

パンクロック探偵が暴き出す“音”の秘密!

  • ★★★ Excellent!!!

梅雨に入ったころから唐突に自殺願望を抱くようになった銀行員・詰草カアトは、通勤途中、衝動に突き上げられるまま自殺しようと決意する。しかし、いざ実行しようとしたそのとき、パンキッシュな衣装で身を包んだ男に止められた。男の名は玉砂利アナキ。その肩書きは、私立探偵――

キャッチーなオープニングでまず引っぱり込まれる本作、驚くのはその後にアナキさんが見せる謎解きの“論”なのですよ。ミステリー最大の魅力は謎解きのカタルシスにあるわけですが、その答を導き出す式がブレなくまっすぐしっかりと構築されていなければ、ただのトンデモに堕ちてしまいます。

そしてこの作品のテーマは“音”。それを正しく理論へ落とし込み、その上でドラマとして描き出し、ついには「なるほど!」な正解を示すに至る。本当にお見事です。
さらっと読めるのに読み足りなさを感じさせないエンタメミステリー、ぐいっとおすすめさせていただきます!


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=髙橋 剛)

なにもないからこそ最高な“あるある”

  • ★★★ Excellent!!!

タイトルはちょっと過激な感じですが、実はとある会社員さんのテレワーク生活記です。……なので心配された方もご安心をー、ということで。

内容的には多くのサラリーマンの方が共感することまちがいなしの「あるある」です。リモートワークという“オン”のすぐそばにご家族や生活という“オフ”があって、だからこそ両者が引き起こすズレにちょっと困ったり、ちょっとした思いがけない風景を見たり、それらをきっかけにちょっと思い出すことがあったり。この著者さんの「ちょっと」が、なんでもない記録に確かな滋味を与えているんですよねぇ。例えるなら昆布出汁!

そして味わっているうち、しみじみ思うんです。派手な展開も濃いドラマもない、でも特別なことが「なにもない」毎日はこんなに愛おしいんだって。

パンデミックの影響はまだ色濃いですが、著者さんがそこはかとなく綴ったよしなしごとに倣い、「なにもない」毎日を送れるよう努めて参りましょう。


(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=髙橋 剛)