寒くなりきれないまま過ぎていく、なにかと騒がしい2月。みなさま健やかにお過ごしいただけておりますでしょうか? 私は今のところ空元気で生きてます。
今月は新作紹介! いつものごとくに「みなさまとぜひ出逢っていただきたい作品」をテーマに据え、奔放に選ばせていただきましたよ! ええ、枕詞は毎回同じですけどね! もちろん次も同じですけどね!
と、それはともあれ。恋愛、ホラー、エッセイ、創作論、ジャンルも内容もバラエティな新作4選、どうぞお楽しみくださいましー。

ピックアップ

裏切られて、裏切ろうとして、出逢った

  • ★★★ Excellent!!!

和泉由佳は唐突に恋人から切り出される。好きな人に告白したいから別れてほしい。ただし振られたら元通りつきあってほしい。身勝手過ぎる言葉を残していった恋人は、普通に失恋し、由佳とよりを戻そうとする。由佳は彼に復讐することを決め、行動を開始したのだが……思わぬ出逢いが、彼女の“先”を変えた。

この物語の特徴、ストーリーラインはちゃんと1本に繋がっているのに、次に描かれる情景がまったく別の色合いに塗り替えられていくことです。言ってみれば起伏が大きいんですね。

内容が一本調子じゃないから飽きませんし、各話が短く、リズムよくまとめられてるので、気がつけば現在の更新分3万字超を読み切ってしまうんですよ。読みやすさは小説の重要要素ですが、構成込みでここまでかろやかに魅せてくれるお話はなかなかありません。

たまらなくビターなスタートからほろ甘く色づいていく恋愛譚、ぐいっと推させていただきます。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=髙橋 剛)

怖い話が集まる掲示板は、今日もにぎやかで楽しくて、恐ろしい

  • ★★★ Excellent!!!

観光案内人が某掲示板に建てたスレッド『【求む】観光地の怖い話【観光案内人】』。そこにはさまざまな書き込みが集まるが、中には真偽の知れない体験談が混じってもいて……。

怪奇系掲示板の感じをそのままに再現した、元観光案内人の著者さんによる作品です。横書き表示の利点を十二分に生かした構成もお見事なんですけど、内容がほんと、リアルなんです。どうでもいい話がわーっと続いたところに体験談が放り込まれて、一気に掲示板の雰囲気が引き締まるところなんて特に。

ウェブで文章を読まれる方なら、某巨大掲示板へ日々投稿されるなんらかのスレを読まれたことありますよね? あの空気感が――しかも怖い話系スレのあの緩急が味わえるんですよ。これは著者さんの計算(この場合は構成による誘導)がしっかり効いていればこそですね。

スレを流し読みしてる中でふと目が止まる「あの瞬間」! みなさんにもぜひ体感していただきたく思います。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=髙橋 剛)

ばっちこい異世界転生! 俺は英語で迎え討つ!

  • ★★★ Excellent!!!

トラックなんかに轢き飛ばされ、異世界で目が醒めることもめずらしくなくなった現代。我々もいつ異世界転生するかわからない――しかし、そこで日本語が使える可能性はどれくらいある? 不安だ。不安だから世界最高メジャー言語、英語を憶えていこう!

今回のあらすじ紹介はほぼほぼ意訳になってしまいましたが、ともあれ転生先の異世界ですぐ役立つ英会話を紹介してくれるのがこちらのエッセイです。

ネタからしてすでにすばらしいんですけど、転生直後や異世界生物と遭遇したときなど、それぞれの段階とシチュエーションに合わせた英語表現を教えてくれるのは最高です。

しかも解説がまた濃やかで細やかなんですよねぇ。言葉というものにはそれぞれ意味と意義があって、ここでこう使うからこんな効果を演出できるっていうのがちゃんと説明されてて。これでいつ逝っても怖くありませんね!

自分はこのネタを全力で書ききる! っていう著者さんの魂が感じられる素敵なムダ話、寒くて起きたくない朝なんかにおすすめです。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=髙橋 剛)

創作者だからこその暗黒面を曝け出す!

  • ★★★ Excellent!!!

ツイッターの裏アカウントで吐き出していたという著者さんの創作にまつわる悩みや憤りを、同じ思い持つ同志のため表へ引きずり出した創作論(?)。

話供養というものがあります。これは亡くなった方の思い出を語ることで、残された方々があらためて悼み、慰められるためのものなんですけど、これはまさに創作者ならではの話供養だなぁと思うんです。

小説へ取りかかって1本書き上げるまでには、それはもういろいろありますよね。その間に降り積もったりかき乱したりする“邪魔”が、著者さんの愚痴として露わになっていきます。外因的なものもあれば内因的なものもある。でも、それらは等しく創作者の筆を迷わせて、書く気力を削ぎ落としていくわけで。

ここで赤裸々に綴られた愚痴の数々は、書き手さんなら共感のひと言でしょう。綺麗事じゃありえないリアルがあるのはもちろんのこと、なにせ投げ出すことなく書き続けていればこその愚痴ですからね。

現在進行形で悩んでいる書き手さんにぜひ読んでいただきたい“話供養”です。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=髙橋 剛)