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異世界転生。子供のころから生まれ変わりという考え方が身近にあった日本人には大変受け入れやすいジャンルの作品だ。だが、しかし待って欲しい。生まれ変わりを信じていた貴方はこう考えたことはなかっただろうか? 「はたして次も人間に生まれ変わることができるのか?」と。
というわけで、今回は人間以外に転生する作品を中心に紹介しよう。GoogleSpreadsheetsや宇宙空間なんかに転生させられた人たちから、特撮の再生怪人になったOLの話、ファンタジー世界に送り込まれた怪獣の話など、いずれもバリエーションに富んだものばかりだ!
Excel職人としてブラック企業で働いていたタカハシが死後送り込まれたのは、白いタイルが無限に広がる謎の空間……そこは何とGoogleSpreadsheetの中だった! そしてそこにいる先人の男からタカハシは世界に隠された重大な真実を教えられる……。
「GoogleSpreadsheetsは燃え尽きたExcel職人の魂で動いているんだ」
ちょっと何を言っているかわからないかもしれないが、つまり、本作はSpreadsheetの中の人(worker)として様々な関数を処理することになった男の話である……関数の処理とか、小説でどう表現するんですかね……とか思いたくなる気持ちはわかるが、読めばわかる! これが我々が知らなかった『関数』の正体なのだ!
表計算ソフトという、普通なら仕事上の付き合いぐらいしかなさそうな存在から、これだけの物語を抽出できる想像力を是非堪能してほしい。それとExcelやSpreadsheetsで実践できる様々な『関数』の解説があるので、表計算ソフトをもうちょっと便利に使いこなしたいという人にもおすすめだ。
(「人外な転生物語」4選/文=柿崎 憲)
異世界人に体を貸す代わりに、一時的に異世界の生命体へ転生できる装置をもらった主人公。さっそく使用するが、記念すべき最初の転生先は宇宙空間! そして自身は宇宙空間を漂うガス状生命体だった!
体の大きさはメートルどころか光年単位だし、体温はほぼ絶対零度。人間とはかけ離れた存在になりつつも、冷静に現状を分析して有意義な生活を送ろうとする主人公の姿が面白い。
ガス状生物ならではの形で他の宇宙生物とコミュニケーションを取ったり、運動をしたりと日常を送る様子だけでも楽しく、独自の音楽や歴史に触れて異文化を体験する姿は、まさに未知との遭遇といった感じで非常にワクワクしてしまう。
また宇宙生物以外にも電子に意識を宿したり、人類と似て非なる宇宙人に転生して学校生活を送ったりする様子は実に新鮮。大きな事件は起こらないものの、未知の生命体として生きる知的興奮が味わえるSFらしい楽しみのある作品だ。
(「人外な転生物語」4選/文=柿崎 憲)
仕事帰りに見知らぬ母子をかばってトラックに轢かれてしまった、一人のアラサーOL。
そして彼女が目を覚ますと、なぜか怪人・ハチドリ女になっていた! しかもただの怪人ではないぞ! このハチドリ女は一度死んだところを甦らせられた再生怪人! つまり特撮の世界で一番死にやすい存在だ!
せっかく転生できたのに、いきなり命が危うい! 生前にニチアサで蓄えた特撮の知識を活かして、ヒーローと戦わなくて済むように上手く立ち回ろうとする彼女だが、この転生した体はどうやら生前にヒーローと縁があったようで……。
ハチドリ女こと「わたし」が迷い込んでしまったのは、ヒーローと悪の組織が戦い、住宅地のすぐ裏手に廃車置場や採石場がある、いかにも特撮の撮影に使われそうな奇妙な世界だ。そんな中で、変身アイテムの種類からヒーローの性質を探ったり、物語の進行具合から自分の死亡フラグを判断したりと、特撮のお約束を逆手にとって、あの手この手で生き延びようとする姿が面白い!
頑張れハチドリ女! 再生怪人とはいえ、たった一度与えられた命はチャンスだから!
(「人外な転生物語」4選/文=柿崎 憲)
自分以外は全て敵という荒れ果てた世界で、無限の闘争を続けていた怪獣・龍巍。だが、ある戦いの最中、龍巍は地面に呑み込まれ、気が付くと全く別の世界にいた。
そこは竜と人間が共存する世界。龍巍は自分に何が起こったかわからないまま、ただ敵を求めてさまよう。だがそこで彼を待っていたのは、敵ではなく竜と人間のハーフの少女・ジーナとの出会いだった。
この龍巍、怪獣だけあって圧倒的に強い。異世界の竜が火を噴き毒液を吐こうとも、ものともせずに圧倒的な力で蹂躙していく。この傍若無人な姿こそまさに怪獣だ!
しかし別に彼は戦いを楽しんでいるというわけではない。ただ他の生き方を知らないだけなのだ。そんな彼に対してジーナはこの世界で暮らすためにいろいろなことを教え込もうとするのだが……。
果たして彼女の想いは龍巍に届くのか、この世界とはかけ離れた存在である龍巍は自分の生きる意味を見つけることができるのか。
怪獣の異世界転移という大胆な設定とは裏腹に、一頭の怪獣の生き様を丁寧に描く異色のファンタジーだ!
(「人外な転生物語」4選/文=柿崎 憲)