ついに新年度が始まり、この春から社会人新生活が始まったという方も多いのではないでしょうか。そこで今回は「働かざる者食うべからず」という建前と「絶対に働きたくないでござる!」という本音の板挟みで日々頑張るあなたのために、お仕事にまつわる作品を4つ選ばせていただきました。
自分のクローンたちと工場で働くブラックなSFから、グレーな商売に手を出して大金を掴もうとする若者のピカレスクロマン、魔王軍のブラックな職場をホワイトにしようとする経営指南ファンタジー、ブラックときどきピンクなエロゲーシナリオライターのお仕事エッセイまで、非常に色とりどりな内容です! なんか全体的に彩度が低い気もしますし、「お仕事!」というより「労働……」っていう感じも強いですが、もうすぐ訪れる大型連休のお供にもどうぞ!

ピックアップ

敗戦続きの帝国を建て直す圧倒的働き方改革!

  • ★★★ Excellent!!!

魔王が治め屈強なモンスターたちを擁するバータリ帝国。それなのに人間たちが暮らすケーカク王国に攻め込んでは負けてばかり。個々の能力では勝っているはずなのになぜ……?

戦略担当に任命されたガーゴイルのリバイズは、そんな事態を改善すべく異世界からコンサルタント・遠峰桜佳を召喚するのだった。「組織は知識、知らなければ死ぬのよ」が口癖の彼女は、その知識をフル動員して帝国軍が抱えていた組織としての欠陥の数々を次々に炙りだしていく……!

ファンタジー世界を舞台にしながら、「現場では優秀な人が上司になるとポンコツになるのはなぜなのか」「なぜこんな無駄な会議をしなければいけないのか」「情報共有が滞るとどうなるのか」とお仕事でよく見かける悩みを桜佳が鮮やかに一刀両断してくれる本作品。

基本コメディタッチで問題とその解決を扱っているので読みやすく、毎回各話の終りには【今回のポイント】がまとめられているので内容が非常にわかりやすい。
組織レベルの見直しだけでなく、個人レベルでの仕事の取り組みに言及している部分も多いので、管理職以外の人が読んでも参考になるのが嬉しい。

この春から働き始めたばかりの新社会人の人から、既に部下がいる管理職の方まで全ての働く人たちにおススメの一作です。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)

反社会的ビジネスで悪党二人が築き上げるものは……

  • ★★★ Excellent!!!

幼少期からネグレクトに遭いまともな生活からドロップアウトして、現在ではまとめサイト運営会社の社長となった堂徳。
エリート一家に生まれるが両親の期待に応えることができず、他者からの羨望や賞賛を求めネットワークビジネスの元締めとなった清倫。
そんな出会うはずのない二人が出会ったことから物語は始まっていく。

まず主人公二人のキャラが非常に強烈だ。
幼き頃の飢えの記憶を忘れられずただただ金を求める堂徳と、金に不自由はしていないが異常なまでの承認欲求を持つ清倫という二人の性格は正反対。本来なら上手く行くはずがないのだが、この二人にはある共通点があった。
それは常に周囲を見下し、他人を喰い物にすることに躊躇いがないこと。こうして互いの目的のために手を組んだ二人は、法律スレスレのビジネスを展開していく。
二人とも普通だったら忌避されそうなキャラなのだが、いくら悪事に手を染めようが一切罪悪感を抱かず、自分の欲望にとことん忠実な彼らには一般的な物語の主人公とは一味違う魅力がある。

また彼らが行うビジネスの様子もかなり具体的に書かれており、普段は見られない裏社会の珍しさもあいまって、一度読み始めたら手が止められなくなる一作だ。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)

待っているはずの明日はどこかで見た昨日

  • ★★★ Excellent!!!

毎日毎日同じような仕事でうんざりという人が共感間違いなしなのがこの作品。

主人公は、自分のクローン四人と人形工場で働く「ぼく」。ベルトコンベアに載って流れてくる不気味な肉塊を処理しながら、ぼんやりと過去に思いを馳せ、あるいは契約終了後の輝かしい未来を夢想して、淡々と労働の日々を送り続ける。契約期間は本来四十年だが四人のクローンと一緒に働いているので期間は1/5の八年。その内の半分も過ぎて、自由になれる日も決して遠くはない。
……だが、あるとき「ぼく」は日常の中にある綻びを見つけてしまい、そして自分が遺したと思しき奇妙なメモを発見する。
「われわれの記憶は偽物だ。」

設定はSFだが、不気味な環境で繰り返される日常から逃げ出そうとして、さらなる迷宮に入り込むというサスペンスホラー的な展開が読者を惹きつける。

常に何者かに監視されながらの労働描写や、ところどころに中国語を採用する言葉のセンスなど、物語の細部に至る雰囲気作りも非常に巧みで、最初は小さかった違和感の正体が読み進むにつれてどんどん明らかになっていき、漠然とした不安が具体的な恐怖へと変わっていく過程、そして終盤で明かされるめくるめく数々の真相は一見の価値ありだ。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)