先日、また歳をかさねました。そのたびに考えるのですが、大人ってなんでしょうか。アニメやゲームが好きだと子供っぽいと言われますが、映画やスポーツが好きだと言われません。大人は責任感や常識が備わっている? 知識や経験が豊富? けれど大人より礼儀正しい子供や、子供より感情的な大人も頻繁に見かけます。思うに私たちは自分の偏見にはめて大人と子供を判断していないでしょうか。今回は、大人と子供の狭間にある作品を選んでみました。皆さんは、子供の頃に憧れた大人に近づいているでしょうか、いまの自分は幸せでしょうか。作品を通して何かの答えが見つかれば幸いです。幼き頃の私よ、今も私はラノベが大好きだよ。

ピックアップ

おっさんたちの異世界召喚サークル活動。ちょっと見学していきませんか?

  • ★★★ Excellent!!!

酒もタバコもギャンブルもやらず、かといってこれといった趣味や特技もない。どこにでもいる平凡なサラリーマン・寺崎正(40)。
妻や娘からも「つまらない人ね」と言われて傷つく小心者の彼が、奇妙なサークルに入会したことで人生に彩りが生まれる。

毎週木曜日。公民館で行われる中高年サークル「異世界召喚予備軍」。
活動内容は、異世界に召喚されても生き残る技術を身につけること。
もちろん、異世界召喚なんて非現実的な空想だ。でも、もしかしたらと夢やロマンを抱くおっさんたちが集まってくる。

サークルメンバーは中小企業の社長から、有名メーカーの本部長、ベンチャー企業の幹部まで社会的地位のあるエリートばかり。
そんなおっさんたちが、異世界について真面目に議論したり、剣と盾を振り回してアーマードバトルしたり、サバイバルを想定して芋虫を食べてみたり、童心に戻って仲間と大騒ぎする光景が微笑ましくてワクワクするのだ。

寺崎もバトルで勝つために筋トレを始めると、仕事や家庭にもメリハリがついて上手くいくようになる。おっさんでも何かを始めれば、成長できる、変われるんだと勇気づけられる。

そんな寺崎が、いじめられっ子の男子高校生と出会い。芽生えていく世代を越えた男の友情がさらなる感動を呼ぶ。

いくつになっても男の中には少年の魂が眠っていると、心の奥を揺さぶってやまない。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=愛咲優詩)

絶対に破れない契約を破れ! 勝てば自由、負ければ絶対服従の契約ゲーム

  • ★★★ Excellent!!!

若者の間で密かに広まっているインスタント契約アプリ「コントラクト」。そのアプリによって結ばれた契約は、絶対に遵守しなければならない超自然的な強制力があった。

そのコントラクトを利用して行われる賭けゲーム「エンパイアリズムゲーム(エンゲーム)」に敗北し、「ネイティブ」と呼ばれる謎の男が支配するグループに隷属させられた男子高校生・小林圭が自由のためにリベンジを果たす。

エンゲームの内容は、カードゲームやトークゲームなど様々だ。
基本はイカサマ禁止のシンプルなルールだが、だからこそ相手の仕草や言葉使いから狙いを読み取ったり、あるいはブラフをかけて思考を誘導したり、メンタリズムをフルに駆使した心理・推理・知能のバトルが奥が深い。

もちろん、エンゲームでの駆け引きも熱いが、謎のベールに包まれた正体不明の男・ネイティブの元へ辿り着くまでの過程、勝機を作り出す下準備までがこの作品のキモだ。

負けず嫌いで頭のキレる小林圭が、敵も味方も騙して繰り出す秘策にして奇策に驚かされる。

冷静でありながら白熱したスリリングな真剣勝負が手に汗握り、トリックを見逃さぬように一言一句を繰り返し読んでしまうことだろう。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=愛咲優詩)

ワインは大人の嗜み。合法ロリと学ぶ、千円から始めるワイン入門

  • ★★★ Excellent!!!

女子大学生の石黒寧子は、誰もが小学生と見紛う幼児体型の合法ロリ。
そんな彼女が二十歳の誕生日に初めて飲んだワインの味に感動し、奥深いワインの世界へと踏み入れる。

黒猫のラベルが特徴のワイン『ツェラー シュヴァルツカッツ』。
聖女の乳と称される蜜と花の癒やしの香り『リープフラウミルヒ』。
マスカットの甘みが弾ける発泡性ワイン『アスティスプマンテ』。

ときに生活費を切り崩してワインを買い漁る寧子の無邪気さが初々しく、早くも大酒飲みの片鱗が垣間見えて苦笑しきり。

素晴らしい点は、作中で登場するワインは現実に存在していて、どれもコンビニやスーパーにて千円前後で購入できることだ。
安物と侮るなかれ、一本一本に長い歴史と物語があり、世界中で多くのファンに愛されている銘柄ばかりだ。

この世の最高の幸せを味わうかのように陶然とワインに酔いしれる寧子の姿に思わず読者もごくりと生唾を呑む。

作者は現役のソムリエというから、このワインへの知識の深さ、表現の巧みさにも納得だ。

ワインと"ようじょ"の不思議なマリアージュ。皆様も一度テイスティングしてみてはいかがだろうか。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=愛咲優詩)

男三人と女三人。六人の幼馴染たちが描く恋色プリズム

  • ★★★ Excellent!!!

多摩川にほど近い川原町団地は、幼稚園児からお年寄りまで住人みな顔見知りという昔ながらの人付き合いが残る集合住宅。
そんな団地で生まれ育ち兄弟姉妹のように仲の良い幼馴染の男女六人組を描いた青春群像劇。

モデルもびっくりな高身長だけど内気な夏菜。
ムードメーカーで周囲から愛されるアホ娘の千華。
口元のホクロがチャーミングなギャル系の美優。
サッカー部のキャプテンで爽やかなイケメンの修。
チビだけど誰よりも威勢がいい腕白小僧の元気。
そして自然と皆の先頭に立つリーダーの奏太。

放課後は誰かの家に集まって、ゲームをしたり、マンガを読んだり、そのまま寝落ちして男女交じって雑魚寝してしまう、そんな幼馴染たちの気のおけない関係が心なごむ。

しかし、六人も高校三年生に進学し、将来の進路を考え始める。
それは同時にモラトリアムの終わりを意味し、次第にそれぞれが秘めていた恋心があふれ出てきて、ただの幼馴染ではいられなくなる。

微妙な距離感と複雑な男女の恋愛模様が切なくも愛おしい気持ちで胸をいっぱいにさせてくれる。

男女六人それぞれの視点で語られていく、彼ら彼女らが見つめる先には誰がいるのか。

人生で最も美しい青春の真っ只中にいる若者たちの輝きが眩しい一作。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=愛咲優詩)