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今回チョイスした作品は、ミステリー要素を含んだSF、そしてSF要素を含んだミステリーだ。未知の生命体の正体を追う科学者たち。特殊な力を持った殺し屋の意外な手口。完璧なアリバイとタイムマシンの研究。遺言書の内容によって揺れ動く三通りの真相。などなど通常のミステリーでは見られない奇妙な謎が盛りだくさん。SF要素が絡むからといって理不尽な要素があるわけではなく、どの作品にもしっかりとした解答が用意されているからご安心あれ!
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考古学者の田辺は防衛省に勤める旧友からある遺跡の調査を依頼される。
その遺跡で彼女が遭遇したものは、宇宙人が作りだしたと思しき未知の生命体――パリキィだった。350万年前から地球に居たパリキィは調査班の面々に己を木星に飛ばすよう要求する。
一度はパリキィへの協力を約束した一同だが、時が経つにつれてある疑惑が持ち上がってくる……果たしてパリキィは本当の目的を語っていたのだろうか?
ロケットの打ち上げまで残り一週間、それぞれの手法で調査を開始した科学者たちは、やがて思わぬ真実に行き当たる。
SF的な設定を軸にして、謎多き生命体――パリキィの正体を探る変則的なミステリー。
作中に登場する七人の科学者たちはそれぞれ独自の価値観を持っており、どの人物もキャラが立っている。
彼らのやりとりは専門的な知見を交えつつも、ユーモラスかつ軽妙で読みづらさを感じさせない。
終盤で明かされるパリキィの狙いも意外性たっぷりで、SFとミステリーの融合に見事成功している。
(SF×ミステリー 4選/文=柿崎 憲)
SF×ミステリーというテーマで、ポピュラーなのが異能力者による犯罪だ。
現実には存在しない能力を組み込むことで、通常の事件ではたどり着くことのない意外な真相が導き出されることもある。
そして、本作の主人公もそうした特殊な能力を持った殺し屋である。それもあらゆる依頼を断らない凄腕の殺し屋だ。その気になる能力の正体は……なんと指先に火を灯すことができるのだ!
……地味だな。
ライターやマッチがあれば事足りる気もするし、ナイフや拳銃と較べれば殺傷力も心許ない。では果たして彼女はどのようにしてターゲットを殺すのか?
無駄のないすっきりとした文章でテンポよく物語を転がして、わずか千文字強の長さできっちり伏線を回収してオチを付けるというショート・ショートのお手本のような一作だ。
(SF×ミステリー 4選/文=柿崎 憲)
私立探偵の由名時が調査依頼を受けた殺人事件、それはある素粒子物理学の研究室で起きたものだった。
被害者の准教授は何者かに胸をナイフで刺され殺害され、現場の痕跡や凶器に残された指紋から、容疑者は同じ研究室の客員教授に絞られた。だが、教授は犯行が起きた時刻、別の県の大学で講義を行うという完璧なアリバイを持っていた。
ただでさえ奇妙なこの事件だが、さらに依頼人から、二人が研究していたものの正体が「タイムマシン」と聞かされて……。
事件を構成する道具は一見SF仕立てだが、物語は私立探偵の一人称からなるハードボイルド・タッチで進められる。このミスマッチに思える二つの要素が見事に調和しており、独特の魅力を生み出している。
一見荒唐無稽にしか思えないタイムマシンという設定もしっかり事件の真相に絡んでいるからお見事。
本作の探偵役・由名時が登場する作品は他にもあるので、気に入ったそちらもどうぞ。
(SF×ミステリー 4選/文=柿崎 憲)