どんな傑作や名作も、最初は新作として世に出ます。それが歴史的大作になるか、あるいは誰にも知られずに消えていくのかは誰にもわかりません。何よりも作者の皆さん、ひとりひとりは誰とも異なる個性を持っています。そして読者にも個性があり、好みがあります。今は話題にならずとも、人気ランキングには上がらずとも、他人には見向きもされずとも、書くこと、読むことを楽しんでください。作者と読者の皆さんのその今が、未来の可能性のたまごになるのです。
冬北高校の〝学校の七十七不思議〟のひとつ、冬の季節だけ活動する部活「こたつ部」の活動内容は、その名の通り「こたつでぬくぬくすること」。そんな「こたつ部」で可愛い先輩とまったり過ごす放課後タイムが和みました。
主人公・暖隆(あたたか)君の相方の陽奈先輩が実に可愛い。ミニスカとニーソックスが似合うボクっ娘で、いつも陽気な小話で笑わせてくれて、小柄で幼児体型のくせに年上の先輩風を吹かせるのだけれど、それでいてちょっと褒めるとすぐにデレて恋愛フラグが立ってしまうところが、チョロ可愛い。
ときたま学内の変わり者の生徒たちが訪ねてきては部室が賑やかになるが、いつもは二人だけでの部室でみかんを食べて、漫画を読んだり、ソシャゲしたり、ひとつひとつのエピソードは取るに足らない物語なのだけれど、飾らない日常の愛おしさに満ちていました。
何よりもこたつが素晴らしい。こたつがあればみんな幸せ! こたつ is GOD!
(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=愛咲優詩)
猫をかばってトラックに轢かれた男子高校生が、改造手術で戦隊ヒーローの黄色として蘇り、悪の手先から自分の身を守るために仲間探しに奔走するという、なんともやるせないストーリーが面白い。
主人公の家路君は、勉強も運動も平凡で、いつもエロい妄想ばかりしているけど気になる女の子の前では挙動不審でまともに喋れない。まあ、非モテで地味な陰キャはこんなもんだよねというキャラクター像が、悲しいかな共感してしまう。
戦隊ヒーローの黄色といっても、防御特化型で戦闘力のない彼は悪の手下に襲われても手も足も出ず、世界の平和よりもまずは自分の身を守るために仲間を探し、見つけたかと思えば脳筋な赤色のフォローに回りと、ヒーローらしからぬ苦労ぶりが申し訳ないのだけれど笑いを誘いました。
どうしてこうも世の中、黄色ばかりが差別されるのか! 黄色だって頑張って生きてるんだよ! カレー好きだから世知辛いってか! 次の戦隊ヒーローは黄色を応援したくなりました。
(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=愛咲優詩)
地球上で戦争や紛争等の命を奪い合うデスゲームが禁止された世界。世界を動かし、人々を熱狂させるのはeスポーツだった。eスポーツを巡って埼玉県草加市に建てられた大規模eスポーツ施設「オケアノス」で繰り広げられるプロゲーマーたちと敵対勢力が織りなす群像劇が手に汗握ります。
ファンタジーとリズムゲームが融合した新作AR(拡張現実)ゲーム「ファントランス」の正式稼働に伴い、各地から集まったアルストロメリア、ビスマルク、アガートラームといった強豪プロゲーマーたちが鎬を削り、その一方で違法ツールを使う荒らしや、まとめサイト管理人などの炎上目的の者たちがAR空間で交錯するやり取りがゲーム好きな読者の心をくすぐります。
プレイヤーのモラルを保つにはどうするべきか、eスポーツとはどうあるべきなのか、ネット炎上対策など、現実のゲーム業界にも通じるメタ要素を絡めたストーリーで、将来的なeスポーツの国際競技化に向けた問題提起として考えさせられる内容です。
(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=愛咲優詩)
異世界オーベルへと召喚された管理栄養士の主人公が、栄養学の知識を活かした美味しくて栄養バランスのいい健康食で人々の心と身体を満たしていく光景が心温まりました。
異世界に召喚されるにあたって神様から好きなスキルを授けると言われ、時間停止や無限の魔力などの最強チートスキルですら選り取りみどりなのに、主人公の朝山橙也が選んだのは食材の栄養価を鑑定したり、カロリーを計算したりと、栄養士としての自分を活かすスキルで、自分が作った食事で誰かを幸せにしたいと願う、生来のお人好しぶりに好感が持てます。
橙也が訪れたサンティメールの街では、料理とは「美味しいが身体に悪いもの」か、「身体に良いが不味いもの」という両極端の考えが根付いていて、そんな偏見を払拭するために大衆食堂で働き始めるのが現在までの話ですが、これからどんな客と出会い、どんな料理を作っていくのか興味が掻き立てられます。
「異世界グルメ」という定番化しつつあるジャンルに「健康食」という切り口で挑む設定が新しい作品です。
(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=愛咲優詩)