カクヨムの数ある作品から作品を5つに絞っておすすめするという本企画ですが、おすすめといっても人によっては恋愛ものが好きだったり、ホラーがダメだったり、と好みは別れるもので、万人に向けておすすめの作品を選ぶというのは難しいですよね。今回は初回ということで自分の素直な好みに加えて、読んでいて「上手い」と思った作品を選ばせていただきました。皆様に楽しんでいただけると幸いです。また、こんな作品を紹介して欲しいなどのご意見を頂けますとこちらも非常に助かりますので、何卒よろしくお願いします。
本作はある一人のゲーマーの話だ。
ひきこもりだった彼は、ある日得意とするFPSの腕前を活かしたゲームの仕事を見つけてくる。
その内容は彼がログインしたゲームの中でテディベアを撃ち殺していくだけ。
たったそれだけで、彼の口座にかなりの金額が振り込まれるというものだ。
しかし、彼は気付いていなかったが、実は彼が本当に殺していたのは…………。
と、普通ならそういう展開になりそうなのだが、本作はそういった話運びはしない。
主人公は自分が殺している物の正体を最初から把握していて、それを労働と割り切っているのだ。
「神経コン」や「ポリアンナ」といった近未来技術のサポートを受けた彼がテディベアを殺していく様子は鬼気迫るといったものではない。むしろ、普段の生活と変わらぬ落ち着いた様子である。
その淡々とした語り口に、読者も「近い将来こんな世界が当たり前になってもおかしくない」と作中で書かれている様々な歪みをスルーしてしまいそうになる。
設定面だけではなく、異常な状況を日常の延長線上であるかのように見せかける筆力も含めて、実に面白いSFだ。
(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=柿崎 憲)
『徳エネルギー』の発展によって、これまでにない発展を遂げた人類社会。
だが『徳カリプス』が起こったことにより人類文明は崩壊。
生き残った人々は徳エネルギーを求め即身仏を漁って暮らしていた……。
まるで変な薬をキメてしまったかのようなあらすじ紹介だが、全て事実である。
こうした設定が尖っている作品は、尖っている分「出落ち」っぽくなりがちなのだが、そんなことはないのがこの作品である。
「第一部」では荒廃した都市で、採掘屋を営むガンジーとクーカイが物語を牽引していくが、「第二部」では、寺院都市にて得度兵器と戦う覚醒者・肆捌空海が中心人物になったりと、「部」が切り替わるごとに主人公と舞台が移り変わり、様々な角度から物語が語られることで、話が進むにつれて徐々に世界の秘密が明らかになっていく、ストーリー構成はただの色物で終わらない凄みを感じさせてくれる。
作中で頻出する見知らぬ単語に関しては、作者がTIPsでしっかりと解説してくれているので、興味を持った人は恐れることなく新たな世界を覗いていってほしい。
(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=柿崎 憲)
主人公のレオンは聖ベルナンド王国の第一王子。彼は二つの秘密を持っていた。
一つは実は別世界からの転生者で前世の記憶を持っていること。そして彼の本当の母親が、正妃シェリルではないこと。
そんな微妙な立場の彼だが、ある日、食器の銀のスプーンが黒く変色したのを見て、何者かが毒を使って自分の命を奪おうとしたことを知ってしまい……。
このレオン、転生者だが、これといって特別な力は持っておらず、年齢に似合わぬ頭の良さぐらいしか長所はない。
そんな彼が犯人を見つけるために調査を開始するのだが、その結果、あまり触れられたくない王家の秘密にどんどん切りこんでしまい、ますます命を狙われるはめに……。
設定はなかなか重く、ドロドロした人間関係に気が滅入ったりもしそうなのだが、本作はレオンの明るい性格と語り口もあって非常にリーダビリティが高い。
登場人物もレオンを側で助けるメイドのフィーナや、わけありの宮廷道化師ゲイルなど個性的な人物ばかりが揃っている。
終盤に向かうにつれて、真相だと思っていたものが二転三転する展開も小気味よく、軽い気持ちで楽しめるライトミステリーだ。
(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=柿崎 憲)
タイトルにもある「悪夢」、この悪夢というのは、留守番中に強盗に襲われた女子小学生の体験談を指している。
突然現れた見知らぬ男に理不尽な暴力を振るわれ、ペットを殺され、日常が崩壊していく恐怖と絶望を、女子小学生の視点からじっくり味あわされ、もうこの時点で充分酷いのだが、本作の凄さはその先にある。
こういう場所でプロ作家の作品を選ぶのもどうかと思われるのだが、本作はただ「面白い」だけの作品ではない。
さりげない伏線の張り方や、なんとも言えない後味を残すラスト一行など、話の見せ方が非常に巧みで、技術的に「上手い」作品なのだ。
たとえアマチュアの作品であっても、プロ以上に面白いアイデアが盛り込まれているという作品は決して珍しくない昨今だが、こうした小説の書き方、魅せ方の上手さという点ではやはりプロに軍配が上がる。
小説を読むのが好きという方はもちろん、小説を書く人にとっても非常に参考になるという意味で、カクヨムユーザーの方々には是非読んでほしい一作だ。
短編なので一度読み終わったら、改めて頭から読み直すとより楽しめるだろう。
(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=柿崎 憲)