新時代のファンタジー作品、 まだまだ求む!
2,676 作品
この度は「第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト」にご応募いただき、誠にありがとうございました。
ドラゴンノベルスは2019年2月に創刊し、その年の夏に第1回となる「ドラゴンノベルス新世代ファンタジー小説コンテスト」を実施しました。その後、名称をリニューアルしながらも例年春から夏にかけてコンテストを行い、今年で5回目。そんな節目の今回は新たな試みとして、編集部からのお題を掲げた「部門賞」を設置いたしました。多くの方に部門賞のお題に挑戦していただき、最終的に全2,676作品のご応募をいただきました。ご応募いただいたすべての作品、著者の皆さまに重ねてお礼申し上げます。
部門賞を設けたこともあって一次選考から悩ましい選考となりましたが、全応募作の中から33作品を最終選考候補とさせていただきました。それぞれにストロングポイントを持ち、異世界/現代ファンタジーの可能性を広げてくれるような作品ばかりで、とくに部門賞のお題に沿った形で練りこまれた作品は非常に読み応えがありました。最終的にその中から、大賞1作品、部門賞「ひたむきヒロイン」1作品、部門賞「ファンタジー×マニアック」1作品、そして特別賞3作品を選出いたしました。
いずれの作品もカクヨム連載版で十分に完成度の高いものとなっていますが、より一層魅力的な作品として世に送り出すべく書籍化を進めてまいります。2024年夏ごろの書籍刊行を楽しみにお待ちいただけますと幸いです。
また、第6回のコンテストも2024年春に開催の予定です。
今後もドラゴンノベルスをどうぞよろしくお願いいたします!
総評・講評:ゲーム・企画書籍編集部
とある世界で死んでしまった少女。彼女は別の世界の女神から祝福され、その女神の世界によみがえる。そこで与えられたのは裁縫にまつわる技術を使うか再び輪廻の輪に戻るかという選択肢。
せっかく新しい人生が与えられたなら楽しまなくちゃ損だよね!
女神様に与えられた小屋で武器や魔法の扱い方を覚えた少女《リリィ》は、特大登山用リュックを背負って小屋に別れを告げ人里を目指す。
途中、ラージシルクスパイダーのタラトを仲間にし蜘蛛糸が取れるようになった彼女は、蜘蛛糸から作られるスパイダーシルクを売って生計を立てていこうと心に誓う。途中、冒険者ギルドや商業ギルドのお世話になりながらも、自分のお店目指して頑張るリリィ。
当面の目標は自分のお店を持つこと!
大好きなお父様とお母様まで、一緒に処刑されてしまう!
時代背景はおよそ十三世紀前後の、まさに大航海時代前夜。
ガツンと脳天にまで突き抜けたスパイスまみれのお肉の味に前世の記憶が甦り、乙女ゲームのゼンボルグ公爵令嬢マリエットローズ・ジエンド(二歳)に転生したと知った私はすぐさま動き出した。
だってその役どころは、お父様やゼンボルグ公爵派の貴族達と一緒に陰謀を巡らせ、王国の乗っ取りを企む悪役令嬢だ。
その末路は当然、断罪で処刑。
タイムリミットは、本編開始までのあと十年足らず。
しかも、私がヒロイン達と仲良くしようと関わらずにいようと、それとは無関係にお父様達が陰謀を進めてしまう。
そもそも、どうしてお父様達はそんな陰謀を?
調べてみれば、かつて王国に侵略されて臣従させられた上、領地が世界の西の果てで貧乏だ田舎者だと馬鹿にされ、経済的な嫌がらせをされていただなんて。
だったら『ゼンボルグ公爵領世界の中心計画』発動よ!
陰謀なんかより、大型船を作って大海へ、さらなる西の果てへと漕ぎ出しましょう!
目指せ、未発見の新大陸!
ゼンボルグ公爵領を豊かな領地に、世界の中心にしてみせようじゃない!
ヒロイン主人公(悪役令嬢)の立志伝的ストーリーです。
プロローグで海賊令嬢になったヒロインが描かれますが、本編は2歳から始まります。悪役令嬢として断罪される16歳まであと14年しかないという「どうする私!?」な作品です。
恋愛要素はどこ吹く風な主人公をはじめ、両親の公爵夫妻やまわりの仲間も魅力的なキャラが揃っていて、物語の作り方や文章力も巧いです。大型船や新大陸が中々出てこないという指摘もありましたが「大航海時代だからイイのです!」と大上段で振り被っているのが清々しい作品です。
伯爵家三男で領内鉱山の鉱山長である僕は、事故で寝込んだ時に思い出す。かつて鉄オタでいずれは自分専用の庭園鉄道開設を夢見ていた事を。なら今の身分を活かして自分の鉄道を作り上げよう。まずは鉱山用トロッコ、そしてゆくゆくは長距離路線を敷いて旅客列車を……
今回から設けられた部門賞では、編集部からのお題に対してたくさんの意欲作を応募していただきました。そのお題の一つである「ファンタジー×マニアック部門」において、特に異彩を放っていたのが本作です。タイトルの通り異世界で鉄道を作ろうという発想もさることながら、作中に登場する知識や技術は現代の鉄道技術に基づいており、まさにマニアックと言うほかありません。そこに異世界的な要素も織り交ぜながら展開する鉄道物語という斬新さも評価し、本作を「ファンタジー×マニアック部門」の部門賞に選出いたしました。
世間では、凶悪なモンスターを生み出すダンジョンが話題になっていた。
それに伴い、モンスターに対抗できる【覚醒者】たちは、多くの人間から尊敬や畏怖を向けられる。
しかし、スキルに覚醒することなく高校二年生にまでなった青年、犬飼透は、かつて抱いた覚醒者への淡い夢も風化し、いまでは平凡な人生をそれなりに謳歌していた。
そんなある日。
些細な日常の変化を感じながらも学校から自宅に帰る途中、透は一匹の捨て犬と出会う。
「どうしてお前はこんな所にいるんだ? もしかして、ご主人様に捨てられたのか?」
気まぐれから子犬を拾った透。
すると、その子犬に名前を付けた瞬間、自らの内側に眠っていた【とある】スキルが覚醒するーー。
「お前……モンスター、だったのか?」
「わふ?」
跡形もなく消え去った日常。
始まる新たなダンジョンライフ。
後輩の女子生徒に声を声をかけられる?
ネットで話題の新人テイマー?
挙句の果てには、超有名ダンジョン配信者にまで迫られて……⁉︎
透の本当の青春の日々が幕を開けるーー。
子犬との出会いにより、世界的に稀なテイマーに覚醒した主人公。そこから多くの人々に出会い、認められ、平凡だった高校生活が一変していくという王道的な爽快感を持つ作品です。ダンジョンの冒険と日常の2つの側面から、ペットたちのみならず数多くのヒロインとの関わりが活き活きと描かれている点も魅力の一つです。そんな等身大の日常や、配信を通じて主人公が有名になっていく点など、現代ファンタジーという設定を存分に活かした楽しさを評価し、本作を特別賞として選出いたしました。
孤児であるアウセルが儀式によって覚醒させたのは、絶望的なまでに貧弱な【泡】のスキルだった。
貴族に「才能がない」と罵られ、学園を退学させられたアウセルは、冒険者ギルド会館の清掃員として働くことになる。
安定した就職先を見つけられたことに満足し、すっかり夢を見ることを諦めていたアウセルは、このまま平凡な人生が続くんだろうと思っていた。
そんなある日、国内最強の剣士に声をかけられた事がキッカケで、冒険者への道が開かれる。
魔物との戦いのなかで、【泡】に秘められた多様な性質が露わになり、スキルの熟練度が増すたびに、その類稀な真価が発揮されていく。
使えないと思われていたスキルが実は……という展開はWeb小説においては王道的な展開ですが、本作はそこに「泡」というオリジナリティあふれる要素を組み込み、独自の面白さを生み出している作品です。泡でできることの試行錯誤や、最初から大冒険ではなくまずは掃除の仕事から始めることなど、主人公が地道にがんばった結果、使えないと思われたスキルがどんどん強くなっていく過程は爽快感があります。王道的でありながら独創的であるという点を高く評価し、本作を特別賞に選出いたしました。
第三王女パシアン姫(7)は、公爵家令息のイディオ(13)と婚約していたが、とあるパーティ会場で婚約破棄を告げられた。
王女付きの護衛騎士は、さてこの後どうなるのだろうと見守っていたら、パシアン姫はとんでもないことを言いだして――?
放置されてもマイペースで突き進む暴れん坊姫さまが、平民護衛騎士を振り回しつつ冒険者になってみたファンタジー!
(護衛騎士の一人称視点が主ですが、主人公は姫さまだったりします)
(婚約破棄は添え物で、メインは冒険です。そして通常の婚約破棄モノではありません)
お転婆が過ぎるお姫さまに振り回される護衛騎士の視点で語られる本作。やりたい放題のお姫さまがかわいく魅力的で、その言動に読者もまた心地よく振り回され、護衛騎士のツッコミに頷きながら楽しく読み進めることができました。婚約破棄をきっかけに冒険者稼業へ、というWeb小説ではよくある筋書きながら、物語は緻密に配置されたキャラクターや世界設定によって思わぬ方向へと転がっていきます。読者を物語の世界へと引き込む著者の力量とともに、作品の大きな可能性を感じ特別賞に選出いたしました。
「第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト」の中間選考の結果を発表させていただきます。
多数の力作を投稿してくださった皆様、並びに作品を読んでくださった皆様には、改めて深く御礼申し上げます。
※掲載の並びは作品のコンテストへの応募順となっております
講評
女の子主人公の一人称で描かれる元気で読みやすい筆致、慣れない異世界で、前向きに生活基盤を作っていくポジティブなストーリーが、高く評価されました。等身大の無邪気な姿がほほえましく、読んでいて自然と応援したくなる主人公のキャラクターも魅力的でした。相棒である大蜘蛛のタラトの設定をうまく生かし、異世界でのキャリアを積み重ねていく展開も自然で、ストーリーテラーとしての高いセンスも光ります。世界観、ストーリー、キャラクター作り、文章、すべての点において高いレベルの作品と評価し「大賞」といたしました。