カクヨム発ファンタジー作品求む!
2,298 作品
この度は「第3回ドラゴンノベルス新世代ファンタジー小説コンテスト」にご応募いただき、誠にありがとうございました。
第3回となる今回は、前回を大幅に上回る2298作品ものご応募をいただきました。カクヨムユーザーの熱を感じるとともに、創刊3年目の若いレーベルであるドラゴンノベルスへの期待や評価と受け取り、編集部一同、改めて身の引き締まる思いです。重ねてお礼申し上げます。
今回のドラゴンノベルス新世代ファンタジー小説コンテストでは、読者選考の後に一次選考を行い、全応募作の中から22作品を最終選考候補作とさせていただきました。異世界ファンタジーの王道作品からオリジナリティー溢れるもの、流行に乗ったものなど多彩な作品が揃い、一次から非常に楽しくも難しい選考となりましたが、最終的に大賞1作品、特別賞5作品を選出いたしました。
いずれの作品も、カクヨム連載版が十分に魅力的で読み応えのあるものばかりですが、書籍化した際のイメージを強く意識して選考を行いました。各作品が商品としてどのような形になるのか、期待していただけますと幸いです。2022年春から予定しております書籍刊行を楽しみにお待ちくださいませ。
また、第4回のコンテストも2022年春に開催の予定です。
今後もドラゴンノベルスをどうぞよろしくお願いいたします。
総評・講評:ゲーム・企画書籍編集部
転生したら丁度矢の雨が振ってくる所でした。右手には鍋、左手には鍋フタ。頑張って生き残ろう!
リアル寄りな中世末期~近世ドイツ風の世界を歩いてみよう。目立ったチートは無いけど生活しているだけで楽しい、よく死にかけるのは気のせいな日常系ファンタジー。
冬のある日、セリムは悪魔の誘惑に負けて魔人化した。
彼は勇者に殺されるまでに、王都の民や貴族を虐殺し、王国に悪魔が押し寄せる引き金を引いてしまった。
セリムの死後、悪魔たちは王都を陥落させ、王国を滅亡させる。
悪魔に囚われ、魂だけになって王国の滅亡を見ていたセリムは、気付けば、なぜか14歳の自分に巻き戻っていた。
目の前に浮かぶのは、透明な板に書かれたメッセージ。
《 あなたは求道者になりました。正しい行いをし、徳を積むことでレベルが上がります 》
強さも権力も持っていた。しかし、それでは足りなかった。自分だけのレベルアップで、破滅の未来を変えていく。
登場人物が過去に戻り、最悪の結末を回避するために奮闘する「やり直し」ものと呼ばれる作品は、媒体を問わず人気があります。本作はその「やり直し」という展開に「悪魔の誘惑に打ち勝つため、徳を積んで聖人を目指す」という設定を加え、斬新さを感じる作品となっています。数値化された徳のポイント、デイリークエストなどのゲーム的要素や、善行を通して成長する主人公の姿など、テンポよく展開する物語でありながら、「善」とは何かと考えさせられる深さもあります。これらの点を評価し、本作を特別賞に選出させていただきました。
「さすが、おじさまです!」オッサン×JCのあぶない異世界逃避行(無双)
妻に浮気され立ち直れない中年男と、イジメにあい上履きで電車に乗っていた女子中学生は、勇者召喚に巻き込まれ異世界に転移してしまう。魔法が存在する新天地でチートな冒険譚が始まるかと思いきや、中年男は加護なしの無能、少女は異端扱いされて、命を狙われることに。異端とは何か? おっさんの中途ハンパなミリオタ知識は果たして何かの役に立つのか? 何も先が見えないまま、とりあえず親子ほど歳が離れたふたりの成り上がり逃走劇が始まった。
剣と魔法の異世界でおっさんの魔導銃が火を吹いた時、世界の運命が急転回を始める。
異世界で互いに居場所を失いかけたおっさんと少女の出会いから始まる本作。個性的なキャラクターたちが織り成すシーンがひとつひとつ丁寧に描かれており、時間を忘れて作品に没頭することができました。中でも冒頭のヒロインの能力と主人公の機転を活かして危機を切り抜けるシーンは、物語の導入として強く読者を引き込む力を感じました。キャラクター同士の関係性の描写と、異世界ファンタジーらしい能力を活かした冒険や戦闘、どちらも高い水準を持って楽しめる作品として、本作を特別賞に選出いたしました。
勇者のトラック転移に巻き込まれたっぽい女子高生。普通の人間だからと勇者の誘いを断り王宮を出ることに。仕事を始めるも失敗続きで上手くいかない。そんな時、魔導具師の適性持ちであることが発覚し、やっと安定した職業に就くことができた。
「これ、頑張れば改造できちゃうんじゃない?」
表向きは魔導具の修理屋を営みつつ、裏では自分用に魔導具を魔改造。元女子高生は快適な異世界生活を目指す。
勇者召喚に巻き込まれて異世界転生した少女が、見知らぬ街で仕事を見つけ、自分の力で生き抜いていこうとする地に足のついた成長物語。特筆すべきは異世界生活のリアルさで、食事や掃除洗濯、トイレ事情に至るまで生活感たっぷりに描写され、「もしも自分が異世界転生したら参考にしよう……」と思わず考えてしまったほどです。書籍としてはテンポよく話が展開していくよう改稿が必要との意見もありましたが、転生者お決まりのチート無双でもなく、スローライフでもない「異世界リアルライフ」という切り口に、作品の可能性を感じました。
超未来の人工知能が、その自我を転生させたのは異世界だった。
転生したのは、魔術も剣術も碌に扱えない落ちこぼれの貴族少年クオリアであった。
だが人間に転生しても、人工知能の演算能力、予測能力は消えない。
戦闘の【最適解】を算出してはラーニングし、しかも前世の記憶と魔術を活かして【オーバーテクノロジー】を蘇らせて肉体を無限強化していく。
人の笑顔を守る守衛騎士として。
着々と、人間としての心を芽生えさせながら。
異世界ファンタジーと人工知能という意外な組み合わせの本作。人間以外の存在が人間性や自我、感情を得ていくというテーマをバックに、王道の異世界ファンタジーをまた新たな気持ちで味わうことができる作品となっています。この強力な個性は主人公の見せ場にも活かされており、アクセントの利いた万能感と爽快感も、本作の面白い点だと言えるでしょう。本作の設定や描写は、今後も様々な特有の魅力があるシーンを作り出せる、発展性も感じられるものでした。これらのチャレンジ性と可能性を評価し、本作を特別賞に選出いたしました。
現代に飛ばされた男が目にしたのは、アニメという名の予言書だった!?
モヒカンで下品な薄ら笑いを浮かべて嫌がる婦女子に襲い掛かる気分の悪い典型的なザコ敵役。そんなヤツは当然演出のように颯爽と現れた勇者に脳天から股にかけて真っ二つにされ、情けなくかつコミカルに呆気なく殺されてしまう。
見てしまったアニメのワンシーンが『自分の未来』だと知ってしまった少年は食い入るように全24話のアニメを『神様』から見せてもらい、そして誓うのだった。
『勇者に穢れを、伝説をなきものに!!』偶然更生してしまった『ザコ敵』により『最悪の外道聖騎士』や『虐殺の狂王』へなるはずだった者たちにも影響は広がって行き、世界に対する逆襲が始まる。
主人公が己の運命を知る過程に「アニメ」を使うなど、冒頭部分の演出や構成の面白さが、まず目を引きました。また、女性であることを隠して男性として登場する主要キャラクターと主人公との距離感、そしてその変化を丁寧に描いている点や、読む者をグイグイ引き込む、キャッチーなストーリーが評価されました。ただ、いくつかの課題も指摘されました。特にタイトルは、この物語の面白さや魅力を、必ずしも十分に表現できているとは言えません。今後、タイトルの再考は必須となるでしょう。
「第3回ドラゴンノベルス新世代ファンタジー小説コンテスト」の中間選考の結果を発表させていただきます。
多数の力作を投稿してくださった皆様、並びに作品を読んでくださった皆様には、改めて深く御礼申し上げます。
※掲載の並びは作品のコンテストへの応募順となっております
講評
異世界転生を果たした主人公がふと気が付くと、そこは絶賛戦争中、手に持つのは鍋と鍋蓋。そんな強烈な印象のシーンから始まる本作ですが、出オチになることなく、すべてにおいて高いレベルでまとまった作品であると感じました。個性的でありながらリアリティのあるキャラクター、鍋に隠された秘密など先を読ませる仕掛け、緻密な情景描写と軽快な心情描写が絶妙に交差する筆致、そして何よりも世界設定に圧倒的な説得力があり、手放しで物語に浸れる極上の読書体験を提供していることを高く評価し、大賞に選出いたしました。