祠の噂
mono
祠の噂
その駐車場には、近づくと死ぬと言われている場所がある。
隅に小さな祠があり、そこだけ草が伸び、白線も薄れている。
誰も正式には語らないが、避ける理由だけは共有されていた。
昔、あの辺りに車を停めていた人間が、自殺したらしい。
詳しい経緯は残っていない。
近づいた。
それだけが共通点だ、と言われている。
ある日、鍵を落とした。
乾いた音がして、転がり、祠の方へ消えた。
一瞬、迷った。
だが拾いに行くしかなかった。
草を踏み、しゃがみ込み、手を伸ばす。
鍵を取る。
祠には触れていない。
視線も向けていない。
それで終わりだと思った。
何も起きなかった。
翌日も、その次の日も、変わらなかった。
噂を思い出すことすらなく、いつも通りに車を停め、帰った。
数日後、手元に知らないハンカチがあった。
白地に、黒の縞模様。
使い古した感じはない。
新品でもない。
どこで手に入れたのか、思い出せなかった。
洗濯物の中に混じっていたのかもしれない、と考えた。
そう考えること自体が、少し不自然だった。
次の瞬間、考えが変わった。
――あ、死のう。
理由はなかった。
その考えは、唐突で、静かだった。
気づいたときには、視界が低く、揺れていた。
天井の、何もない場所から、
縞模様のハンカチが何枚も結ばれ、一本の紐のように垂れ下がっている。
首に、布の感触がある。
噂は、間違っていなかった。
祠の噂 mono @monokaki_story
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