本作は、13世紀のキリキア・アルメニア王国の女王ザベルの人生を描いた、歴史ファンタジー作品です。
浅学な私は知らなかったのですが、彼女は文字通りの「悲劇の女王」としての過酷すぎる人生を歩んでおります。
「歴史」、「悲劇」と、馴染みのない方は、ためらってしまうワードもありますが、そこはご安心を。歴史に馴染みのない方も入りやすい、わかりやすくて美しい語り口の作品です。
特に、作中で語られる「杏は、木から遠くに落ちない」という格言が、印象的でした。希望の言葉ようにも思えるのですが、見方によっては呪いのようにも思えてしまって。まるで彼女の人生に絡みつくみたいに、彼女自身を象徴する言葉のようにも思えてしまうのです。
最後に質問を1つ。
本作を読んだ方に、この質問を投げかけたくなりました。
「悲劇の女王」は、自分の人生のどのシーンをもって「悲劇」と呼ぶと思いますか? と。
アルメニアの悲劇の女性と知られるザベル。この物語は、わずか7歳で女王として即位し、若くして亡くなった彼女の壮絶な生涯をたどる物語です。
ザベルは女王となりましたが、あまりに若く政務を行うことができないため、大貴族であるヘトゥム家が摂政がつくことになるのですが、これが悲劇の始まりでした。
摂政の専横は極まり、望まない婚姻関係を強制され、女性としての尊厳をことごとく踏みにじられ、それでも脳裏をかすめるのは、父から強く言い聞かされていた「あの言葉」なのでした。
格調高い文体の中で吐き出されるザベルの独白に、当時の女性のままならなさが伝わってくるかのようでした。重厚な歴史の一幕が人間の生々しい感情で彩られるような、すばらしい読書体験をありがとうございました。
13世紀のキリキアを舞台にした物語です。
物語全体を通してですが、歴史的背景の描写が緻密です。昔そういえば習ったなぁ、みたいな記憶が、きっと誰の脳裏にも浮かぶはずです。
それでありながら、人物の感情が鮮やかに浮かび上がります。それが、時に幸せで、時には非常に残酷です。まるで人生そのものです。
「杏は、木から遠くに落ちない」
という象徴的な言葉が、ザベルの一生を貫く軸となります。
幸せな日々から一転し、愛する夫フィリップの死、摂政コンスタンティンの謀略、そして修道院での葛藤、望まぬ結婚へと続く展開は痛ましく、歴史の渦に巻かれていく1人の女性の物語として時には酷で、読んでいて辛くなる瞬間もありました。
この時代の女性は、こうだったのかもしれません。そして、男性も、おそらくこうだったのでしょう。
愛とはなんだろう、そんなことを考えさせられました。