春のスポーツ大会 開幕準備ー顔合わせ
高校生活も一週間が経ったが、友達と呼べるほどの関係を僕はいまだ築けないでいた。
他の県から来た人間への興味からか、はじめのうちは向こうから話しかけてくれることがあったが、緊張からか先輩と話すときのようにいかず、一週間もすれば僕に話しかけてくる人間はほとんどいなくなった。
昔なら、なんとかして人間関係を構築しようと躍起になって空回りする結果に終わっていただろう。
だから高校の中に生徒会という心の拠り所を初日から見つけられたのは良いことだった。
毎日通っていて気づいたことは、先輩が言っていた通り他の生徒会のメンバーは本当にサボりがちだということだ。
まぁまだ新学期が始まったばかりで仕事らしい仕事がないので他の先輩が来ないのも当然と言えば当然なのかもしれないけれど。
正直先輩以外の人と上手にコミュニケーションを取れる自信はまだないので、こちらとしてもありがたいことではあった。
今日も変わらず生徒会室へ先輩に会いに行ったのだが、靴箱に先輩以外の靴が一足あり、中からは話し声が聞こえてきた。
生徒会室だから誰かが来るのは当たり前のことといえばそうなのだが、初めてのことで緊張してしまう。
中に入って良いのか、どうしようかと固まってしまっていると、すりガラス越しにこちらに気がついたのか、先輩が声をかけてきた。
「外にいる人、別に重要なこと話してるわけじゃないから、入ってきていいよ。」
僕は別に中に配慮をしたからではなく緊張して入れなかっただけなのだが、許可が出たなら入らないほうがおかしいだろうと思い、言われるまま中に入った。
中には先輩の隣に女性が座っていた。
ピンと張った背筋や、校則の比較的緩いうちの高校では珍しい着飾られていない容姿、真面目なイメージの象徴とも言える眼鏡、目に入ってくる情報が眼の前の女性は真面目そうだなという印象を与える。
と同時に疑問も浮かぶ。
この女性は誰なんだろう、生徒会メンバーなのか?先輩の友達かな?
「あー、庭瀬くんだったんだ。今日もお疲れ様。」
「先輩こそお疲れ様です。」
簡単な挨拶を先輩と交わし、先輩の反対側の椅子に腰を下ろす。
眼の前の人について、尋ねて良いのか、尋ねるにしてもどう話を切り出すか、いつものようにうじうじ悩んでいる時間は今日の僕には与えられなかった。
「はじめまして、常磐澪央です。」
向こうから声をかけられることを微塵も考えていなかった僕の返答はいつものように薄味なものとなる。
「庭瀬です」
名乗ると、常磐さんは何か腑に落ちたかのように頷き返事を返す。
「庭瀬くんのことは小夏から聞いてるよ、いい後輩ができたってね。」
先輩が僕のことを他人に話していたんだと知って、嬉しいような恥ずかしいような気持ちになる。
しかしいい後輩ってなんだろう。
どんな話をしていたのか非常に気になるところではあるのだが、そんなことを聞けるコミュニケーション能力を持ち合わせてはいない。
「で、なんのお話をしていたんですか?先輩。」
「春のスポーツ大会のことについて話してたんだよ。」
春の、ということは他の季節でもやるんだろうか。
というかそもそもスポーツ大会とは何をするものなんだ。
「スポーツ大会って何するもんなんです?」
口から出ていた。
「あれ?担任の先生から話聞いてないの?」
クラスでは基本一人夢想にふけっているので話なんて耳に入ってこない。
「うちのクラスではまだですね。」
嘘ですけど。多分
せっかくいい後輩と言ってくれている先輩の手前恥ずかしい姿は見せられない。
「そう、聞いてないのか。じゃあ教えてあげよう。」
「お願いします。」
先輩から聞いた限りでは、スポーツ大会は各学年で行うクラス対抗のものだそうだ。
体育館も使い、室内外で競技を行う、毎年ゴールデンウィークの前の週くらいに行われる学校の伝統行事だとか。
午前中に1年生、2年生の部が、午後からは3年生の部が行われ、生徒会ではその運営の手伝いをするらしい。
「まぁ、自分の学年の時間は働かないし、スポーツ大会運営委員もお手伝いしてくれるからそこまで忙しくはないけどね。」
スポーツ大会委員は、そういえば学校が始まってすぐクラスの係を決定する時に話に上がっていたような気がする。
適当に数学教科担当を選択して後は話を聞いていなかったのが悔やまれた。
「それで、今は庭瀬くんの配備についてで悩んでたんだよ。」
「というと?」
「スポ大委員はクラスから2名絶対に選ばれるから配備がしやすいんだけどね、生徒会は5月の選挙があるまでお仕事も少ないから、本腰を入れて探してなくて、まだ庭瀬くん以外の1年生の人が見つかってないんだよ。」
つまり2年生の部の時間は生徒会メンバーは全員何かの競技に出ていて、1年の僕一人が生徒会として動くことになるそうなのだ。
5月の選挙で選ばれていないので僕は本当は生徒会お手伝いなのだが。
仕事内容としては運営本部のテントの下で各競技場からの連絡を受けつつ、緊急事態が起きたときに対処する事らしい。
確かに対処する人員が僕一人だけというのは心もとないところがある。
「だから、澪央さんに2年の部の間、庭瀬君と本部についていてほしいなとお願いしてたとこなんだ。」
常盤先輩と二人っきりか。
ただでさえ対人スキルなど皆無に等しいのに、年上のきれいな先輩と一緒でまともに仕事をしていられるか、不安になる。
「一応私も元生徒会役員だから手伝えることは手伝わさせてもらうよ。」
「澪央さんありがとうございます。」
先輩が常磐先輩に抱きつくのを、瞬間そらした視線の端に捉えつつ、今後のことに思いを巡らせる。
今後のためにも生徒会の人間として最低限の働きをしようと、一人思った。
あの日の桜に出会えるまでは 古井都 @huruimiyako-180419
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