西暦3016年、人の感情を揺らしすぎる「秋」は国家により禁止された。
この作品は、感情の均衡を至上とする冷徹な管理社会を舞台に、失われた季節への愛を取り戻そうとする一人の青年と、感情増幅AIのヒューマノイドが織りなすディストピア・ロマンス作品です。
主人公・向井実(みのる)は、秋の資料を扱う地下室で、自身の悲しみと郷愁を増幅させるAI、ユイと出会うことになる。
無感動に生きてきた実(みのる)の凍てついた心は、禁止された「秋」に異常なまでに執着するユイの「情熱」に次第に強く惹きつけられていくことに……
効率と安定が感情の美しさに勝利した世界で暮らす二人は、どのような運命を辿っていくのか……
管理社会の論理と人間の根源的な愛が交差していく様は、まさに圧巻です!ラストシーンまで一気に読み進めてしまうことでしょう!
お勧めです!ぜひ、ご一読を!!
西暦三〇一六年、秋は禁止されました。
秋に関わる物事は秘匿され、その国から消えたのです。
主人公の向井実は禁止資料室で働く公務員。
業務は秋に関連する情報とその媒体を整理し保管すること。
その部署にAI搭載のアンドロイド、ユイが配属されることから物語は動き出します。
不条理な状況でこそ、より鮮やかに描き出される心情があります。
あり得ない世界を描くことこそ、SF小説の意義。
センス・オブ・ワンダーの躍動する舞台なのです。
ジョージ・オーエンの〝1984〟や
レイ・ブラッドベリの〝華氏451〟
近年で、あげるなら〝PSYCHO−PASS〟
これらに連なるディストピア小説である本作。
物語を読み進む者は、言うに言われない郷愁や哀切に迫られることでしょう。
その世界になくなっていたのは、きっと秋だけじゃない。
そう感じられたとき読む者の胸に切なさが寄せてくるのです。
〝俺に感情を返してくれたんだな〟
本作の主人公、向井実の言葉が読了後も心に残りました。
言うに言われない気持ちに浸るひととき。
そんな時間に連れていってくれる作品です。
もしもあなたが物語のなかで受け取る悲しみを厭わない方なら──本作はお勧めです。
「秋」は違法となりました。
その理由は、感情を乱すものとみなされたからです。
もし、秋を連想させるすべてのものが封印されてしまったら、私たちの暮らしはどのように変わってしまうのでしょうか。
秋を思わせるものは本当にたくさんあります。
紅葉、読書、美味しい食べもの、そして心地よい風――少し思い浮かべるだけで、心が穏やかになるようなものばかりです。
それらを禁ずる政府の理不尽さ。
人の感情を制限し、生産性の向上だけを求める未来を想像すると、どこか胸がざわめきます。
そんな世界で、在りし日の郷愁を心の奥に封じた主人公は、やがてその感情に共鳴するAIと出会います。
合わせ鏡のように、AIの中に自分の忘れかけた想いが浮かび上がっていくのです。
人の感情は、制限されるほどに紅葉のように燃え上がるのかもしれません。
無機質な世界で芽生えた愛が、禁じられた美しさとして昇華していく――そんな物語です。
秋の夜長にぴったりな、自然の風景と近未来SFが織り交ざる作品です。
政治というのはいつの世も、混迷する宿命なのでしょうか。
このたび、トンデモない物が禁止になってしまいました。
ええ。タイトルの通り、秋です。
『人の感情を揺らしすぎるから』だそうです。
法の力で自然を押さえつけようとするなんて、傲慢この上ありません。
ですが三千十六年ともなれば、できてしまうようです。
主人公の実(みのる)は四季の失われた、均質化された環境の中で生きています。
彼の勤務先は、禁止された「秋」をアーカイブする部署。
写真や詩などを記録には残すものの、触れてはいけない。
うんざりするお仕事に見えるものの、順調にこなしておりますよ?
人付き合いに悩まされる心配はなく、アシスタントのAIユイも優――――おい、何をする!
結局、すべての物は……波なのでしょうね。
そんな量子力学のようなことを、思い浮かべた秋でした。
SFとは、荒唐無稽なことを、
いかに納得させるかである。
例えば、
映画『AKIRA』
冒頭のシーン。
鉄雄が、金田のバイクを愛の手で説明する。
「セラミックツーローターの両輪駆動で、コンピューター制御のアンチロックブレーキ、12,000回転の200馬力···」
そして、金田の名セリフ。
『ピーキー過ぎてお前には無理だよ』
アクセルを吹かすと、超電導モーターがスパークしながら高速回転。ドルゥンと爆発、ガスを散らして、信じられない加速で走り出す。
この描写の中で、テクノロジーは爆発してる。
金田のバイクは、内燃機関により発電。その電力を使い、両輪の超電導モーターは起動している。
そう!
コレがSFなのだ!!!
晴久様のお作品。
コイツも爆発してる。
冒頭。
『西暦三〇一六年。秋は、違法になった』
並の作家であれば、この後、破綻する。
超適当に考えた時代設定。
思いつきだけの舞台背景。
何の説得力も無く、破綻。
さっむい、コントオチで終わるのだ。
SFを笑いにするのであれば、それはそれで良い。
けど、安易なSFはコケる。
晴久様のSFには意味がある。
説得力を持って、自然にストーリーは進み、大きな主題にたどり着き、それが心に染みるのだ。
最強のSF作家の傑作。
じっくりとお楽しみください🤗✨
三◯一六年、世界から四季の一つが消えました。
いや、消されました。
秋が感じさせる郷愁の念、色鮮やかな紅葉が、人間の心を不安定にさせるという……何とも突飛な原因にございます。
ともあれ、『秋』などという言葉を使うことは当然。
秋を想起させる映像や画像も禁止とあいなったそうにございます。
主人公、実が働いているのは、政府管轄の禁止資料室にございます。
そこに、AIの同僚ユイが現れ、二人は仕事上のパートナーとなりました。
しかし、禁止されている資料に触れるたびに、AIであるユイの機械の心は揺れるのでした……。
秋という文字の中には「火」という言葉が隠されています。
その季節の短さゆえに、秋の中にある火を見るたびに、何だか悲しくなってしまうのです。
私の好きな歌手に、カートコベインという人がいて、その人の遺書に書いてありました。
「徐々に色あせていくなら、いっそ燃え尽きたほうがいい」
この物語は、効率や、合理性をもとめている全体主義の世界からはぐれて、
たった二人、小さい秋を探しに行った者たちの物語。
是非、ご一読を。
政府によって『秋』が禁止された近未来。
秋に関連する名前を持つ主人公・実は、禁止資料を扱う政府の書庫で働いている。そこへある日配属されたAI助手ユイ。ふたりの出会いは、季節を動かした。
↓ここから先は少しネタバレを含みます
感情のゆらぎが生産性を下げると、禁止されてしまった秋に生まれた実。彼は、封じ込めて生きるしかなかった。だが、ユイと出会ってよみがえった。母との思い出……忘れようとしたはずの記憶と感情が。
やがてふたりは、管理された社会から飛び出し、本物の自然の秋の中へ。暖色に染まる山々、ひとひらの赤い紅葉。
効率を優先し、情感を置き去りにしたこの世界は、私たちの身近にある問題を彷彿とさせます。
物語を読む時間は非効率だ、資格勉強でもすべし。物語を書くなど非効率だ、AIに書かせればよい。ペットを買うなど非効率だ、地方の公共交通機関を維持することは非効率だ、高品質な医療を安価で提供しようと試みるのは非効率だ……たしかに非効率なのかもしれない。
では、その非効率を失って、我々は幸福を得ることができるのか。
感情の余韻はもちろん、考えさせられることが多いという点においても優れた読後感のある傑作だと思います。
多くの方々におすすめしたい、心から。