感情を奪われた未来で、ひとひらの紅葉が燃える
- ★★★ Excellent!!!
晴久様の『秋は、違法になった』は、西暦三〇一六年という未来設定でありながら、向井実とユイの間に流れる静かな情動が、むしろ現代よりも人間らしさを感じさせます。禁じられた季節=感情の象徴としての「秋」が、彼らの心を映す鏡のように立ち上がっていて、読むほどに胸の奥がじんわりと揺れます。
管理社会のなかで、秋という「失われた季節」が人間の心をどう揺るがすのか。資料室で交わされるふたりのやりとりは、かすかな温度と哀しみを帯び、どこか読者自身の心に触れてきます。ユイの人工的なはずの感情表現に、なぜか温かさや懐かしさを感じてしまうのはなぜなのか。
読めば、あなたも「季節の色」を思い出すはず。忘れたはずの郷愁が、ページの奥からそっと呼吸を始める――そんな不思議な余韻に満ちた物語でした。